第17章 幸せな音が溢れる世界で
しのぶから発せられるただならぬ空気を感じ取ったのは、私だけではないようで、杏寿郎さんと槇寿郎さんは、まだ胸倉を掴みあってはいたものの
「………」
「………」
互いに怒鳴りあっていた口は閉じられ、顔はしのぶの方へと向けられていた。
そんな2人と目が合ったと思われるしのぶは、張り付けた笑みをさらに深め
「すみません。お二人がここで、いったい何をなさっているか…教えていただけないでしょうか?」
声だけ聞けば、とても穏やかに聞こえる声色で杏寿郎さん、それから槇寿郎さんに問いかけた。
そんなしのぶの様子に、杏寿郎さんは完全にその口を閉ざし、槇寿郎さんは”いや…これは…”としどろもどろになっている。
「あら?答えられませんか?仕方ない方たちですねぇ」
うふふと笑っているしのぶの周りには、相変わらずただならぬ空気が漂っている。
「煉獄さん…は、ここに3人いますね。失礼しました。煉獄杏寿郎さん」
「……はい」
力のない声で”はい”と答える杏寿郎さんの姿は大変物珍しくはあったが、しのぶが怖すぎてそれどころではない。
「ほんの数時間前。私がなんと言ったか…覚えてらっしゃいますか?」
「……うむ」
杏寿郎さんの返事を聞いたしのぶは、右手で口元を覆い、いかにも”驚きました”という仕草を見せ
「まさか覚えているのにあんな行動を取るなんて…私には、にわかに信じられない事です」
と、嫌味たっぷりな様子で言った。
そして
「足の骨が折れていようと、内臓が傷ついていようと、あんな大声を出せて、元柱である方の胸倉を掴む元気があれば、もうここで様子を見る必要はありませんね。退院おめでとうございます」
と言いながら、ぱちぱちと拍手をしてみせた。
そしてその後、杏寿郎さんに向けていた視線を僅かに横にずらし、隣にいる槇寿郎さんの方へと向けた。