第17章 幸せな音が溢れる世界で
……駄目だ…私の言葉なんて全然聞いてもらえない…そうだ!2人とも、千寿郎君の言葉なら聞いてくれるかも!
私は心強い味方の存在を思い出し、言い争う杏寿郎さんと槇寿郎さんから一旦離れ、ベットの側で私たちの動向を見守っていた千寿郎君へと近づいた。
「お願い千寿郎君!2人を止めて!」
私とそう変わらない位置にある千寿郎君の両肩に手を置き、縋るような思いでそう声をかけたものの
「………」
千寿郎君は、2人の姿を凝視するだけで、私の言葉には応えてくれない。
若干違和感を覚えるその様子に
「……千寿郎君…?」
再度その名を呼んでみると
「……たいです…」
と、千寿郎君がボソリと何かを呟いた。
……今、なんて言ったの?
私は、そんな千寿郎君の言葉を聴き取ろうと、千寿郎君の口元に意識を集中した。
すると聴こえて来たのは
「……父上と兄上が喧嘩をしているなんて…夢みたいです…!」
2人が言い争う姿を喜んでいる…とも取れる発言で
……駄目だこりゃ…
私は思わず項垂れてしまう。
大男2人が胸倉を掴み合いながら言い争う姿は、はっきり言って怖い。それでも、放っておけば殴り合いになってしまいそうな杏寿郎さんと槇寿郎さんの様子に
……やっぱり…私がやるしかない…!
私は、なんとか自分がこの場を収める決意を固めた。
…腕だけでも2人の間にねじ込んで、音の波で2人の身体を引きはがそう
そんな事を考えながら
スゥゥゥゥゥ
と肺に空気を取り込みつつ、言い争う2人に近づいて行く。
”取り消してください!”
”うるさい!大体お前はなぁ”
2人の動きをよく観察し、入り込む機会を見計らっていた……その時。
部屋の扉が
サッ
と、中の喧騒とは相反する静かな音を立てながら開かれた。
するとそこには
「……ひっ…」
極寒の海のような冷たい空気を孕んだしのぶが、とびきりの笑顔と青筋をその顔に貼り付け佇んでおり、私は思わず、身をすくめながら後退ってしまう。