第17章 幸せな音が溢れる世界で
すると
「父上!そのように大きな声を出すのはやめてください!鈴音と腹の子が驚いているではないですか!」
杏寿郎さんが、槇寿郎さんへと食って掛かる。
槇寿郎さんは、そんな杏寿郎さんの前にズンズンと近づき、目の前で立ち止まると
「妻に迎える前に子を孕ませてしまうとは…一体どういうつもりだ!?鈴音さんの身体を何だと思ってる!?!?」
先ほどに比べれば小さいものの、相変わらず怒り狂った様子で、杏寿郎さんを怒鳴りつけた。
すると杏寿郎さんも
「どういうつもりも何もありません!俺は元より鈴音を妻にすると決めていたので、多少順番が前後しようと、なんの問題もありません!むしろ子が出来たことで、なかなか首を縦に振ってくれない彼女を、すぐにでも娶れる状況になったことに喜びすら感じています!俺が鈴音を大切に思っていないというような発言はしないでいただきたい!」
槇寿郎さんの物言いが気に入らなかったのか、それに負けない声量で言い返す。
二人のあまりの剣幕に固まっていた私だが、互いの胸ぐらを掴み合い、殴り合いでも始めそうな二人の様子に、ようやく我に返った。
「杏寿郎さん!槇寿郎様さん!お願いだから一旦離れて…落ち着いてください!」
右手で杏寿郎さん、左手で槇寿郎さんの服を掴んだ私は、そこをグイグイと引っ張り、互いへと向いている注意を、私に向けようと試みる。
けれども
「止めないでくれ!俺は鈴音への気持ちを軽んじられる先の発言を、どうあっても許すことが出来ない!父上がその事を謝ってくれるまで、俺は決して引下がりはしない!」
妙な意地を張り出した杏寿郎さんは、全く落ち着く様子はなく
「俺は感じた事をそのまま述べたまでだ!例えお前が、元々鈴音さんを妻として迎えるつもりであったとしても、普通の感覚で考えれば、お前の行動は到底褒められたものじゃない!首を縦に振ってもらえなかったのも、その軽薄さが原因じゃないのか!?」
槇寿郎さんも、杏寿郎さんがそうなっていくのと同じように、落ち着くどころか、その熱量をどんどん増して行く。