第17章 幸せな音が溢れる世界で
けれども私の謝罪に対し
「迷惑…とは、一体何のことでしょう?」
槇寿郎さんは思い当たる節がないらしく、困惑した表情を浮かべ、そう問いかけて来た。
「…あの…私が、師である桑島の死を知らされた日…色々と、気を遣わせてしまったようで…」
私がそう言うと、槇寿郎さんはようやく私の謝罪の理由にピンと来たのか、僅かによっていた眉間の皺がスッとなくなった。
「あの件について、あなたが謝る必要はどこにもありません。私も、桑島殿とは面識があり、杏寿郎から訃報を聞いた際にはとても驚きました」
「…っ槇寿郎さん、じぃちゃ…桑島と面識があったんですか!?」
「はい。まだ隊士にもなっていない頃、当時鳴柱だった桑島殿に、指南を受けたことがありました」
「…柱だった頃のじぃちゃん…!」
じぃちゃん本人から
”私が若い頃わの…”
とよくわからない武勇伝を聞かされたことは多々あった。けれども、第三者から、じぃちゃんが現役だった頃の話を聞く機会はなかった。
”ぜひもっと聞かせてください”
という言葉が、口から突いて出そうになった。
けれども
……っ駄目駄目!今話すべきなのはそれじゃない!
と、自分に言い聞かせ、じぃちゃんについて知りたいと思う気持ちを、喉の奥にぐっと押し込んだ。
「…っ後で、お時間が許すときに、桑島の事をどうかお聞かせ下さい。それより今は…っ…槇寿郎さんにご報告しなくてはならないことがあります…!」
緊張で上手く回らない舌を何とか動かし、私は”報告?”と言いながら再び眉間に皺をこさえた槇寿郎さんの顔を恐る恐る見つめた。
「…っ実は」
と、口を開いたその直後
「っ!?」
杏寿郎さんの大きな手のひらが、私の手首をパッと掴んだ。
急に掴まれ驚いている間に、私の斜め後ろにいたはずの杏寿郎さんが、スッと、私の前に現れ
「その報告は、彼女ではなく、俺の口からさせてもらいます」
と、言った。
急な杏寿郎さんの行動に驚き目を丸くしていると、杏寿郎さんが顔だけチラリと私の方へと振り返って来た。