第17章 幸せな音が溢れる世界で
すると、先ほどまでのさっさと出ていけと言わんばかりの態度から一変
”…あいつ、まだしばらく蝶屋敷で療養なんだろ?それまではここにいろ”
私に音柱邸に留まるように言って来た。
やはり天元さんは口は悪いし、厳しい部分もあるが、それを上回る面倒見の良さが、そんな部分は二の次だと思えてしまう魅力を有している。
にやけそうになる口を隠す為、天元さんに背を向けた私は
”…っありがとうございます!雛鶴さんまきをさん須磨さんにも、報告してきますね!”
と告げ、私の為に台所で遅いお昼を盛り付けている3人の元へと向かったのだった。
遅い昼食をとり、雛鶴さんまきをさん須磨さんの4人でお喋りをした私は、途中にある和菓子屋さんで大量のお饅頭を購入し、約束通り再び蝶屋敷を訪れていた。
「…お邪魔します」
最初に来た時と同じように玄関をくぐり、草履を脱ぎそろえる。その時ふと、私の草履と比べると、かなり大きなそれと、ほぼ同じくらいの大きさのそれが目に入った。
誰か…お見舞いにでも来てるのかな?
そんなことを考えながら、クルリと方向転換し、まずは蝶屋敷の台所へと向かった。
台所には、夕食の下ごしらえをしているアオイさんの姿があり、買って来たお饅頭を2箱手元に残し、それ以外は”蝶屋敷のみんなで食べてね”と言って渡してしまった。
アオイさんが無事お饅頭を受け取ってくれた事を確認した私は、支度の邪魔にならないよう早々に台所を後にし、今後こそ、杏寿郎さんの待つ個室を目指し歩き始めた。
杏寿郎さんと蛇柱様がいる部屋の前にたどり着いた私は、先に来た時と同様に
コンコン
と、部屋の扉を二度叩いた。すると中から
"鈴音か!入るといい!"
気配を探ったのか、扉を叩いたのが私だと気がついている杏寿郎さんが、そう声をかけて来た。
私は特に何かを考える事なく、入るといいと言った杏寿郎さんの言葉に従い
「失礼します」
と、声を掛けながら扉を開いた。