第17章 幸せな音が溢れる世界で
そんな私と杏寿郎さんの様子に、風柱様は”…ちっ!”と大きな舌打ちをし、蛇柱様は”頼むから外でやれ”と額に手を当て項垂れている(水柱様は特に何も思っていないようだ)。
……二人でいるときは確かにこんな風にされることも多かったけど…人前でここまでされたことは…流石になかった筈…
そんなことを考えていると
「自分自身を厳しく律してきた人ほど、それから開放された時の反動は大きいものです。煉獄さんは特に、長年炎柱を輩出してきた名家の嫡男として、柱として、それから隊士として戦う事を選んだあなたの恋人として、自身の気持ちを律する機会も多かったでしょう。ですからきっと、しばらくの間、大好きなあなたを常に隣に置いておきたがるはず」
と、しのぶが言った。
その言葉に私が思ったことと言えば
………流石にそれは……困る
ということである。
私とて杏寿郎さんの傍にいたいし、できる限りのお世話をしてあげたいと思っている。けれども、いま私は”子を身ごもっている”という未知の状態であり、はっきり言ってしまえば自分のことで精一杯だ。
そんな心の声がしのぶに届く筈もなく
「鈴音がもう少し動ける状態になっていれば、”そんなの私の知ったことじゃない”と、好きにさせているところです。ですがまだ、安定していないであろう今の時期に、そうさせる訳にもいかないので、あなた自身の為に、煉獄さんにはもうしばらくここにいてもらった方がいいと思います。だから………ね?」
しのぶの、可愛らしくも圧を感じる顔が、杏寿郎さんの腕で半分以上隠れている私のそれを覗き込んできた。
私は
”絶対にそんなことにはなりませんように”
と心の中で願いながら
「……はい……わかりました」
と、呟くように返事をした。
私の返事を聞いたしのぶは、最後に”頼みますからね”と言った後、”さぁ皆さん自分のベットに戻ってください”と、このなんとも微妙な状況に(杏寿郎さんはそうでもなさそうだが)終止符を打ってくれたのだった。