第17章 幸せな音が溢れる世界で
しのぶにそう言われた杏寿郎さんは
「そうだな!配慮が足らず申し訳ない!」
と、謝罪の言葉を述べながらしのぶに向け頭を下げていた。けれどもその様子は、やはりどこか浮足立って見え
……大丈夫かな…?
と非常に不安の残るものだった。
そう感じていたのはしのぶも同じだったようで
「本当に、お願いしますよ?」
と杏寿郎さんに念を押すように言った後、私の肩に置いていた手をポンと置き直し
「鈴音も…妻として煉獄さんにしっかりと言い聞かせてくださいね?あの人たち、当たり前のようにああして起きて話していますが、普通の人間であれば本来ベットで安静にしているべき時期ですよ?これじゃあ、何のために”絶対安静”とお伝えしたのか、わかったもんじゃありませんからね?煉獄さんはご実家もありますし、そちらで療養してもらってももうかまわない状態です。でも、そうなった時、大変な思いをするのは間違いなくあなたですよ?」
と、脅し文句に近い言葉を、私の耳元でつらつらと述べていく。
……大変な思い…?
私は、正面にある壁に向けていた視線を、杏寿郎さんの顔へと移した。すると、杏寿郎さんと視線がかち合い、私と視線が合った杏寿郎さんは、その顔にパッと満面の笑みを浮かべ、松葉杖を上手に使いながら、しのぶの斜め前に立つ私のところに移動してきた。
それから何を思ったのか、しのぶ、水柱様、風柱様、蛇柱様が同じ部屋にいるのにも関わらず、松葉杖を持っていない方の手…左腕を私の後頭部へと伸ばして来たかと思うと
ぎゅぅぅぅ
っと、当たり前のように抱きしめてきた。
そんな杏寿郎さんの行動に
「………は?」
私は、呆けた声を出すことしか出来ない。
そんな私に反し
「鈴音…俺のかわいい鈴音」
杏寿郎さんは酷くご機嫌な様子で、私の頭頂部に頬擦りをしている。
……え…何…杏寿郎さん…どうしちゃったの…?
人様の前でこんな風に触れられ恥ずかしい気持ちはもちろんあった。けれども、戸惑いが羞恥よりも上回ったこと。それから、杏寿郎さんが松葉杖をついているという状態の為、邪険に振り払うことも出来ない。