第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんの雄叫びに咄嗟に耳を塞ぎつつ
……あんな大声を出したら絶対に……あ、ほら…気配が近づいてきた
容易に想像出来てしまうこれからの展開に巻き込まれまいと、先程までいた杏寿郎さんと蛇柱様が療養している部屋に戻ろうと後退りを始めた。
けれども
サッ
一瞬で距離を詰めてきたこの屋敷の主…蟲柱、胡蝶しのぶの手に阻まれ、部屋を脱出することは叶わなかった。
「一体なんの騒ぎでしょうか?」
蝶の如くフワリと部屋に現れたしのぶの声は、普通の人が聴けば、いつものしのぶのそれとそう変わりないと感じるかもしれない。
残念なことに、人よりも耳がいい私には
………怖っ!!!!!
その声に込められた恐ろしいまでの怒りを、はっきりと感じ取ってしまう。
そして、野生の勘が鋭そうな風柱様と、危機回避能力が高そうな蛇柱様も、しのぶの怒りをしっかりと感じ取ったようで
"俺は関係ない"
と言わんばかりに、1人は布団に潜り込み、1人はその隣で窓の外を眺め始め、その気配を限界まで殺している。
私もそんな風に出来れば良かったが、しのぶの手がしっかりと私の両肩に触れている為、気配を殺すも何もあったもんじゃない。
……風柱様と蛇柱様…ズルい…!
そんな事を思いながら2人の方を凝視していると
「聞いてくれ胡蝶!俺はようやく鈴音と夫婦になれることとなった!それだけじゃない!鈴音の腹に俺の子がいてな!夫であり父親になるんだ!」
空気を読めない男…いや、読まない男、煉獄杏寿郎は、太陽のような明るい笑みをしのぶへと向けた。
「あらあらそれはとてもおめでたいことですね」
「………」
しのぶは私の妊娠のことを知っているはずなのに、敢えて知らないふりをしながら"おめでとう"と言っていることが非常に恐ろしく、唇に妙な力が入った。
「うむ!こんなに嬉しい気持ちになったのは、千寿郎が産まれてきた時以来だ!」
そんな杏寿郎さんに同調しているのか、水柱様はムフフと笑みを浮かべ、しのぶが私にしているのと同じように杏寿郎さんの肩に両手を置きながら、うんうんと頷いている(この方は正真正銘空気が読めない部類に当てはまるようだ)。