第17章 幸せな音が溢れる世界で
部屋に一人になった私は
「……夢みたい…」
そう呟き、背中からボスンと杏寿郎さんのベットに倒れこんだ。
それから下腹部にある膨らみに両手を伸ばし
「……よかったね」
と、声を掛ける。
血のつながりが全てだとはもちろん思わない。
じぃちゃん、善逸、天元さん雛鶴さんまきをさん須磨さん、女将さん、しずこさん……みんなとは、血の繋がり以上のものがあると信じている。
それでも、私が長年感じてきた”両親から愛されなかった”という苦しみを、この子には決して味わってもらいたくなかった。
けれどももう、そんな心配をする必要はない。
杏寿郎さんはきっと…いや、絶対に、この子を大切に思い、愛してくれる
この子は決して、私のような後ろ向きな人生を歩んだりはしないと、確信めいた何かを私は感じていた。
……安心したら…ちょっと…眠くなって来たかも
ここ数日、私の心を乱しに乱していた心配事が無くなり、私は急激な眠気に襲われた。
…ふあぁぁぁぁ
と、大きな欠伸をしたその時
”聞いてくれ!俺はとうとう鈴音を妻に迎えられることになった!”
隣の部屋から、杏寿郎の声が聴こえ
「……え…?」
私を襲っていた眠気が、一瞬でどこかへと去って行った。
……何…杏寿郎さん…一体誰と話してるの…?
そんなことを考えている間にも、杏寿郎さんの口は止まらないようで
"あまりにも嬉しすぎて、実のところ夢でも見ているのではないかと疑っている。小芭内、不死川、冨岡。君たちの誰でも構わない。誰か、俺の頬を思い切り抓ってもらえないだろうか?"
聴きたくもない頓珍漢な言葉たちが、私の耳に届いてくる。
……そうか…杏寿郎さん、隣の部屋…蛇柱様が行くって言っていた、風柱様と水柱様の部屋に行ったんだ…!…嬉しくて夢かもしれないと思うなんて…嬉しいし…可愛いけど…そんなにあっさり私と夫婦になる事を伝えちゃうなんて…ちょっと恥ずかしいかも…
そんな事を考えていると
"あァん?すげェ形相で来たかと思ったら…んなアホな事、頼んで来んじゃねェよ"
風柱様の、極めて呆れた様子の声も聴こえてきた。