第17章 幸せな音が溢れる世界で
その問いに対する答えはもちろん
「………はい…!」
しか存在せず
「…っ…こんな私を…選んでくれて…っ…好きになってくれて…ありがとう…っ…私…私も…杏寿郎さんのことが…心の底から…大好きです…!」
抑えきれない私の気持ちが、ぽろぽろと涙と共にこぼれ落ちて行った。
ベットの淵に腰かけていた杏寿郎さんは片足とは思えない勢いでバッと立ち上がると
ぎゅぅぅぅぅ
と、この部屋を訪れた時と負けず劣らずの力で私を抱きしめてくる。
そして
「俺も君のことを心から………愛している」
と、静かに言った。
「…っ…!」
産まれて初めて言われる
"愛してる"
の言葉に
「…っ…私も……杏寿郎さんを…あ…愛してます…!…っ…私を…あなたの…っ…妻にしてください…!ずっと…ずっと…そばにいさせて下さい…!」
泣きながら杏寿郎さんの身体に縋りつき、自分の胸の内を全て、包み隠す事なく伝えた。
互いに必死に抱きしめ合いながらも、杏寿郎さんは私の下腹部に負担を掛けないよう気を遣ってくれており、そんな様子にも、そこはかとない幸せを感じたのだった。
幸せに浸るように、杏寿郎さんの温もりを感じていたのだが、杏寿郎さんは何を思ったか
「……うむ」
私の身体を優しく引き離し、"君はここに座っていてくれ"と言いながら、私をベットの淵に座らせた。それからベットの横に転がっている松葉杖をおもむろに取ると、個室の扉へと向かって行く。
……どこに…行くのかな…?
本来であれば"絶対安静"と言われている(果たして絶対安静と言われるような状態なんだろうかと聞きたくなる様子ではあるが)杏寿郎さんを、引き止めなければならない。
けれども、残念なことに、感じたことのない幸福感で満たされた私の頭は、正常に働いてはくれないようで、そんな考えには至らず
「転ばないように気をつけて下さいね?」
などと声をかけ、当たり前のようにその背中を見送ってしまった。