第17章 幸せな音が溢れる世界で
心から望んでいた…そして、望んではならないと思っていた言葉を送られ
「…っ…本当に…私で…良いんですか…?」
いつの間にか流れていた涙をそのままに、私は杏寿郎さんの瞳をじっと見つめ、そう問いかけた。
杏寿郎さんは両眉の端を下げ
「君は相変わらずだな」
と幼子に言うような優しい顔つき、そらから声色でそう言った後、この部屋に来た時と同じように、私の両頬を、大きくゴツゴツとした手のひらで優しく包み込んだ。
そして
「"鈴音でいい"…じゃない。俺は、他でもない"鈴音がいい"んだ。君以外を妻にする事など考えられる筈もなければ、今後考えることもない」
私の頬を伝う涙のひとつひとつを拭い取り、愛おし気に目を細めながらそう言った。
そんな行動に、涙は止まるどころか、その量を増していく。
「……後悔…しませんか…?」
「後悔?そんなもの、するはずがない……む?このやり取り、以前にした覚えがある」
「……っ…ごめんなさい…」
「なに!謝る必要はない!君が安心出来るのであれば、何度でも同じ事を聞くといい。その度に俺は、その不安を拭える言葉を送ろう」
優しい杏寿郎さんの言葉が私の胸にスッと染み渡っていく。
「……私…ちゃんと……母親になれると思いますか?」
「ちゃんとした母親と言うものがどんなものか俺にはわからない。だが、君が母親になると同時に、俺も父親になる!その子の親になれるよう、鈴音と俺、手を取り合って進んでいこう」
「……槇寿郎様は……私とこの子を受け入れてくれるでしょうか?」
「父上には、早く君を妻に迎えろと散々言われてきた。故に問題ない。だか娶る前に子ができてしまった事は、咎められるやもしれないな!」
杏寿郎さんのその言葉に
「…っ…そんな…どうしよう…」
顔を青くしていると
「わはは!咎められるのは間違いなく俺だけ!君が怯える必要は全くない!」
杏寿郎さんは、何がそんなに楽しいのか、楽し気に笑いながらそう言った。
けれどもその後、ふっと真剣な表情に戻り
「他に聞いておきたい事はあるか?」
と、私に尋ねてきた。