第17章 幸せな音が溢れる世界で
これ以上ないと言うほどまっすぐと見つめられ
この綺麗な瞳を…ずっと…ずっと見ていたい
そう思った。
「……杏寿郎さん」
「どうした」
優しく、それでいて力強さを感じる声で話しかけられ
心地のいい声を…ずっと…ずっと聴いていたい
そう思った。
私は、両手を下腹部に移動し、大切な命が宿る場所にそれを添え
「私、杏寿郎さんの子を…身ごもりました」
杏寿郎さんの夕陽色の瞳をじっと見つめながらそう言った。
私の言葉は、しっかりと杏寿郎さんに届いているはずなのに
「………」
杏寿郎さんは、まるで時間が止まってしまったかのように、眉一つ動かすことなく、私の顔をじっと見ているのみだ。
……どうしよう…何も言われないのは……想定外だ
私はてっきり
”本当か!?”
と、耳を塞ぎたくなるような大声で言われると思っていた(だから耳の準備…というのはおかしいが、杏寿郎さんの大声で驚かないための心の準備もしていた)。
……このまま2人して黙っていても仕方ないし…子を身ごもったって言われただけじゃ…杏寿郎さんも…困るよね…
あまりの無反応さに、僅かな不安が顔を出す。それでも、自分の為に、そしてもちろんお腹の子の為に、杏寿郎さんときちんと話し合わなければならない。
私は緊張で乾いてしまった喉を潤すように唾をゴクリと飲み込むと、私が今後どうしたいか、そしてどうするつもりかを伝えるため、再び口を開いた。
「……この子は多分、秘薬の任務の時にできた子です。…言ってしまえば…私と杏寿郎さん…二人が望んで出来た子ではありません」
そんな私の言葉に、杏寿郎さんの眉がピクリと小さく反応した。けれども私は、それに気が付かない振りをし喋り続ける。
「……私みたいな未熟な人間が…ちゃんと子を産み育てられるのか…すごく…っ…すごく…不安です……」
”母に捨てられたも同然な私が果たしてこの子を愛することが出来るのか”
この子の存在を善逸から知らされたとき、真っ先に浮かんできたのがその疑問だった。