第17章 幸せな音が溢れる世界で
「もしその”嘘”とやらが、碌でもない理由で吐いたものであってみろ……俺は、貴様を一生認めはしない」
蛇柱様の厳しい言葉に
「……わかっています」
私がそう答えると、蛇柱様は”…どうだかな”と冷たく言い放ち、開けたままになっていた扉を乱暴に閉め去って行った。
閉められた扉をジッと見ていると
「根はとてもいいやつだ。悪く思わないでやって欲しい」
杏寿郎さんが、私の左肩に腕を伸ばし、グッと抱き寄せながらそう言った。
「…わかっています。悪いのは…嘘を吐いていた私です。…ほら、いつまでも片足で立っているのは疲れるでしょう?ベットに戻りますよ」
「この程度なんともない!」
「なんともなくありません。ほら、来てください」
「むぅ」
杏寿郎さんは不満気に唸りながらも、蛇柱様が横になっていなかった方…つまりは杏寿郎さんのベットの方へと向かう私に着いて来てくれた。
なんとか杏寿郎さんをベットの淵に座らせる事に成功した私は、30センチほど距離開け、距離さんの正面に立った。
「して。先程の話の続きだが…何故鈴音は嘘を吐き、俺に会いに来なかった?君が、何の意味もなくそのような事をするとは思えないが、その理由が俺には全く思いつかない」
杏寿郎さんは怒っている様子はなかったものの、言葉の通り、私が嘘を吐いた理由がわからず、かなり困惑しているようだった。
私はふぅと息を吐きながら、ゆっくりと瞬きをする。
それから、私よりも下にある夕陽色の瞳をじっと見つめた。
「…嘘を吐いて会いに来なかった理由…それは、私に杏寿郎さんと会って話す勇気がなかったからです」
私の言葉を聞いた杏寿郎さんは、身体の前で両腕を組み
「話す勇気がないとはどう言う事だ?俺は鈴音が話してくれることならば、どんな話であろうと受け止める自信がある!故に、はっきりと言ってもらいたい!」
私が抱く不安など、全て吹き飛ばしてしまいそうな程の快活な声でそう言った。