第17章 幸せな音が溢れる世界で
いつも吊り上がっている眉は下がり、猛禽類のような鋭い瞳も、すっかりと鳴りをひそめていた。
心から私を心配していることが伝わってくるその様子に
「……ごめんなさい…具合が悪いっていうのは……嘘なんです」
罪悪感を堪えきれず、そう言ってしまった。
すると杏寿郎さんは
「…嘘?…どういうことだ?」
眉を顰め、困惑の色を隠せない様子でそう尋ねて来る。
それに答えようと口を開きかけたその時
「待て」
と制止の声が掛けられた。
そう。この部屋にいるのは私と杏寿郎さんだけではない。
「俺がいるところでそういう話を始めるな」
「…すまない!お前がいることをすっかりと忘れていた」
「………」
珍しく、私は蛇柱様の存在を覚えていた。それをわかっていながら、一刻も早く杏寿郎さんに真実を伝えたいと思う気持ちを抑えることが出来ず、自分が嘘をついていたことを告げてしまったのだ。
蛇柱様は、ギッと音を立て、横になっていたベットから降りると
「俺は不死川の所へ行く。話が済んだら呼びに来い」
枕の横でとぐろを巻いていた白蛇を腕に巻き付け、療養中とは思えないしっかりとした足取りで、私と杏寿郎さんがいる部屋の扉のところまで歩いて来る。
「悪いな!俺も後で、不死川と冨岡に礼をしに行こう!」
「冨岡はどうでもいい」
そのまま私と杏寿郎さんの横をすり抜けて行くと思っていたが
「……おい荒山」
「…っ…はい」
蛇柱様は、私の横で立ち止まると、私のことを横目でジッと見てきた(いつの間にか蛇柱様の首に移動していた白蛇も一緒になって私のことをジッと見ている)。
「杏寿郎は、貴様が来るのを毎日待っていた。だが具合が悪いのであれば仕方がない、明日は会えるかもしれないと…そう寂し気に言っていたんだ」
「………」
杏寿郎さんが恥ずかし気に”おい小芭内っ!”と声を掛け、制止を試みているようだが、蛇柱様は私に対し、相当おかんむりなようで、包帯の下に隠れた口を閉じる様子はない。