第17章 幸せな音が溢れる世界で
目を瞑り、下腹部へと神経を集中させると
ドッドッドッドッドッドッ
と、力強い鼓動で、私に応えてくれているかのように思えた。
……いくよ…
私に宿る小さな命に向けそう言ったあと
コンコン
と、部屋の扉を叩いた。
すると聞こえてきたのは
「…誰だ」
杏寿郎さんではなく、蛇柱様の声だった。
「療養中のところすみません。荒山鈴音です。杏寿郎さんに…」
”会いに来ました”
と、言葉を続けようとしたのだが
バタンッ…ダンダンダン
聞こえてきた騒がしい音に、思わず口を噤んだ。
そして
ダーンッ!
もの凄い勢いで扉が開き
「っ鈴音!!!」
「…ッ…」
”絶対安静”と聞いていた筈の杏寿郎さんが、私の身体をぎゅっと…痛いほどに抱き締めてきた。
短いながらも杏寿郎さんと恋人として過ごしてきた身なので、こういった場合もあるかもしれないと予想していた私は、下腹部を両手で守っていた。
守ってはいたものの
ぎゅぅぅぅぅぅ
っと、容赦なく抱き締めてくるその力に
「……杏寿郎さん…苦しい…!」
自分が会いに来ることを伸ばし伸ばしにしていたことが原因とは言え、苦しいものは苦しいし、杏寿郎さんの圧からお腹を守るにも限界がある。
杏寿郎さんの血と消毒液の匂いがする胸元に埋められた顔を何とか動かし
「は…放してください…」
と、声を掛けた。
すると、私を抱きしめる杏寿郎さんの腕の力がフっと弱まり、杏寿郎さんの包帯だらけの手が、先ほどのもの凄い力とは相反する優しい手つきで、私の両頬を包み込んだ。
それから杏寿郎さんは
ジィィィィッ
と
「…………」
且つ無言で、私の顔を観察するように見てきた。
あまりの容赦ない視線に
「……杏寿郎さん…?」
たじたじになりながらその名を呼ぶと
「……具合が悪いと、和にも要にも宇髄にも胡蝶にも聞いていたが…大事はないのか?歩き回って問題はないのか?」
酷く心配気な表情で尋ねられてしまった。