第3章 未知との出会い、騒音との再会
「…私自身、まだ使い方がよくわからない部分もあって…呼吸の名前も、自分で勝手に思いついたのをつけただけで…それが正しいのかすらも…わからないんです」
雷の呼吸の基礎を自分なりに習得できたと思い、最近は自分でも未知の、派生の呼吸を知る努力をしてきたつもりだ。けれども、
「…答えが…お手本とするものがないから…それが本当に正しいものなのか…すごく不安で…」
自分で自分の呼吸のこともよくわからない
そのことが酷く情けなく思え、黙って私の話を聞いてくれている天元さんからふぃっと視線を外してしまう。
そんな私に投げかけられた言葉が
「はぁ?馬鹿かお前?」
それだ。
その言葉に、下げてしまっていた視線を上げ再び天元さんの顔を見る。天元さんは、じっと私の目を見据え、
「んなもん適当にテメェで好きなように考えて作ってきゃ良い。手本がない?最高じゃねぇか。沸き立つような感覚が身体の奥底から上がってくんだろ?それに従え。硬え頭で地味に考えんな。心と身体で…派手に感じろ!」
”頭で考えるな。心と身体で感じろ”
その単純明快な言葉に、長らく心にかかってきた靄が
スッ
と、綺麗に晴れていくような気がした。
「…天元さん…」
「あ?なんだよ?」
「私、天元さんに初めて会ったとき、凄く変な人だと思っていました」
「はぁ!?お前な!人が真剣に助言をしてやってるのに「…っでも!」」
天元さんの言葉を遮り、まっすぐとその目を見据える。
「ここで忍の稽古を付けてくれたこと。派生の呼吸との向き合い方を教えてくれたこと」
そして、口にすることは出来ないが、”愛”という物の片鱗に触れさせてくれたこと。
「心から感謝しています。私を受け入れていただき、本当にありがとうございます」
その言葉がよっぽど意外だったのか、天元さんが珍しく目を丸くしながらこちらを見ている。
「…なんですか?その顔」
天元さんはその驚きの表情を貼り付けたまま
「…素直なお前は…気持ち悪ぃな…」
とボソリと言った。
人が感謝の気持ちを述べているというのに、気持ち悪いとは何事だろうか。