第17章 幸せな音が溢れる世界で
私は、しのぶさんの肩に置いていた手をパッと放し、一歩後退すると、両手に握りこぶしを作り、恥ずかしさを紛らわすようにブンブンと上下に動かした。
「っもう!だっだら紛らわしい言い方をするのはやめてください!これでもう安心だなんて言うから私はてっきり…」
「それは失礼しました。鈴音さんともあろうお方が勘違いなさるとは思っていなくて」
ちっとも悪いと思っていなさそうなしのぶさんの様子に、私は僅かな苛立ちの感情を抱く。
けれども
……鬼殺隊に入ってから…雛鶴さんまきをさん須磨さん以外の女の人と、何の気も遣わずこうやって話せるの……初めてかもしれない…
そのことに気が付いた途端、先程感じた小さな苛立ちは、あっという間にその姿を消してしまった。
「……しのぶさん」
呟くようにその名を呼ぶと
「なんですか?」
しのぶさんは、すぐに返事をしてくれた。
頭に浮かんできたその願望を口に出すことが、恥ずかしい気もした。けれども恥ずかしい以上に、”そうないたい”と思う感情が勝り
「私…しのぶさんと……隊士としてじゃなく、同性の…お友達として…もっと仲良くなりたいです」
左右の手をもじもじといじりながら、そんなことを口走ってみる。
するとすぐ
「奇遇ですね」
しのぶさんは、私の言葉に応えるようにそう言った。
気恥ずかしさで反らしていた視線をしのぶさんへと戻すと、しのぶさんも珍しく照れたような顔をしていた。そして
「私も、鈴音さんと、もっと親しくなれればなぁと思っていたところです」
と言ってくれた。
「……よかった」
失礼なお願いではないかと心配していたが、どうやらちっともそんなことはないようで、私はホッと胸をなでおろした。
するとその時
コンコン
と言う扉を叩く音と共に
”お話中失礼します”
アオイさんの凛とした声が扉の向こうから聞こえてきた。
「どうぞ」
しのぶさんがそう答えると、カチャッと子気味のいい音を立て、木製の扉が開かれた。すると、扉が開いたと同時にアオイさんと目が合い、互いに会釈を交わす。
アオイさんはその後、しのぶさんの方へと視線を向け
「処方した薬の効果について、しのぶ様と直接話したいと言っている人がいまして…」
申し訳なさそうな表情をしながらそう言った。