第17章 幸せな音が溢れる世界で
急に立ち上がり、大声を出した私に、しのぶさんは酷く驚いているようだった。
私は、そんなしのぶさんの様子を気にすることなく、その華奢な肩に両手を置き
「私、これからもしのぶさんと一緒にいたいです…素のしのぶさんをもっと知りたいです!しのぶさん…自分で調合した毒を飲んでいたんですよね!?だったら解毒薬だって作れるでしょう!?もし一人じゃ難しければ私も手伝うし、天元さんにも協力してもらえるように私からお願いします!だから…そんな諦めるようなこと…言わないでください!!!」
半泣きになりながら訴えかけた。
しのぶさんは、そんな私の事を
ぱちぱちぱち
と、音が聞こえてきそうなほどの鮮やかな瞬きをしながら、不思議気な表情で見ている。
……あれ…もしかして…私の勘違い…?…いやでも愈史郎さんが私にわざわざ嘘を教えるはずもないし………でも…しのぶさん…笑ってる…?
半ば混乱気味な私に反し、しのぶさんはとても落ち着いた様子で、口元に笑みすら浮かべていた。
「……なぜ…笑っているのでしょう…?」
私がそう尋ねると、しのぶさんは
「すみません。でも…嬉しくて」
と言いながらその笑みを深めた。
「それにしても、鈴音さんが、その件についてご存じだとは思いませんでした。もしかして…珠世さんにお聞きになったんですか?」
私は、しのぶさんのその問いに対し、首を左右に振り否定の意を示す。
「…愈史郎さんが、教えてくれたんです」
私のその答えに、しのぶさんは僅かに驚いた様子を見せた。
「あらまぁまさかあの偏屈が。それは意外です」
「……」
大した事じゃないような口ぶりで話し続けるしのぶさんを、私は首を傾げながら見てしまう。
しのぶさんは、そんな私の様子に再び笑みを浮かべ
「…身体に蓄積してきた毒を分解する薬を、戦いが終わったあの日以降、毎日欠かさず飲んでいます。完全に元の身体に戻るかはわかりませんが、少なくとも、鈴音さんの前から突然いなくなったりするようなことは起きません。ですから、ご安心を」
と言った。