第17章 幸せな音が溢れる世界で
「だから、しのぶさんが私にそう言ってくれたように、しのぶさんが私に謝る必要なんてないんです。………それに」
「…それに、なんですか?」
たっぷりと間を置いた私を、しのぶさんが首を傾げながらじっと見ている。
「…あの前向きで真っすぐな杏寿郎さんが、そんな風に思ってしまう程私のことを思ってくれてる…それがわかって、ちょっとだけ嬉しいんです」
気恥ずかしさで、視線を左右に泳がせながらそう言うと
「……煉獄さんの鈴音さんに対する気持ちも相当ですが、鈴音さんもそれに負けず劣らず…の、ようですね」
しのぶさんは、呆れたと言いたげな様子でそう言った。
自分でも、”やばいな”と思わないこともない。それでも好きな人が、自分をつなぎ留めたいがために、その人らしからぬことをしてしまう…杏寿郎さんと出会ってからの私が、そうなってしまいがちだからこそ、自分のせいで、杏寿郎さんがそうなっていることを嬉しいと感じてしまった。
……私も…相当歪んでるのかもしれない
それでも、そうなった原因が杏寿郎さんにあるのだと思えば、それで構わないと思った。
自分自身に呆れ、苦笑いを浮かべていたその時
「2人の今後のことを心配していましたが、私の取り越し苦労だったようですね……これでもう安心です」
しのぶさんが、静かにそう言った。
これでもう安心です
その言葉に
”自分がいなくなったとしても”
という意味合いが隠れているように聞こえ、私の心が激しくかき乱された。
……そうか…戦いが終わっても…しのぶさんの身体に残ってる藤の毒が…なくなったわけじゃない……ということは…ゆくゆくはしのぶさんとお別れしないといけなくなるの?せっかく…平和な世の中で暮らせるようになったのに?……そんなの…
「…嫌です!!!」
「っ!?」
心の声は、いつの間にか、言葉として私の口から出てきてしまった。