第17章 幸せな音が溢れる世界で
今までは、あの人たち…父と母のことを思い出すと、どうしようもなく胸が痛んだ。
けれども、今回は全くそれがない。
……あぁ…そうか
導き出した答えに、心の中でひとり呟いていると
「…鈴音さん、大丈夫ですか?話すのが辛ければ、無理に話さなくても良いんですよ?」
しのぶさんが、心配気に私の顔を覗き込んできた。
「…うぅん…聞いてください」
首を左右に振りながらそう答えると、しのぶさんは"…わかりました"と言ってくれた。
「……両親にすら愛されなかった私は、必要のない人間だと…そう思っていました。何かを成さないと、誰かの役に立たないと、存在する価値がない…ずっと、そう思っていました」
そんな私の言葉に、しのぶさんは眉間にグッと深い皺を寄せた。
「…ふふ…すごい皺!そんな顔、しのぶさんには似合いませんよ?」
私が笑いながらそう言うと
「お生憎様。私は元々、頻繁にこんな顔をする人間です」
しのぶさんは、普段よりも強気な印象を受ける口ぶりで言った。
「そうなんですか?じゃあ、そのまま、元々のしのぶさんでいてください」
「はいはい。で、話の続き、聞かせてくださいよ」
「…っと、そうでしたね」
私はそう返事をすると、しのぶさんに向けていた視線を下げ、瞼を伏せた。
「……しのぶさん、よく私に自己評価が低いって言ってくれていましたけど、それは多分、私の中にそんな考えがずっとあったからだと思うんです。でも、こんな私を、誰よりも好きだって言ってくれる杏寿郎さんが。文句を言いながらも、私を見守り受け入れてくれる天元さんが。妹みたいに可愛がってくれる雛鶴さんまきをさん須磨さんが。心の底から私を信頼して、辛い時は一緒に泣いてくれる善逸が。それから、私のことを真剣に考えて、叱ってくれたしのぶさんが…両親には愛されなかったかもしれないけど、それと比べものにならないようなあったかい愛をくれるんだって……私も、誰かから愛をもらえるんだって…気がつかせてくれたんです」
両親の事を思い出しても心が痛まなかった理由…その答えは、きっとその気づきのお陰だ。