第17章 幸せな音が溢れる世界で
「隊士である以上…まして柱という身でである以上、明日会えなくなってもおかしくないと理解していた筈なのに……私は、心のどこかで、姉はずっと私のそばにいてくれると思い込んでいたんです。でも、現実はそうではなくて…姉は死に、私は姉の面影を追いかけるように、穏やかで優しい姉の振る舞いを真似するようになりました。姉を、そして昔の私を知る人たちは、滑稽だと思ったことでしょう。でも、そうしないと…前を向くことが出来なかったんです」
「……しのぶさん…」
私は、羽織の合わせ目を両手で強く掴んでいるしのぶさん手に、自分の手をゆっくりと重ねた。
そんな私の行動に、しのぶさんは”ありがとうございます”と、悲し気な笑みを浮かべながら言った。
「……話が逸れてしまいましたね。つまり何が言いたかったと言いますと、私は、鈴音さんを鬼に奪われたくないと思う煉獄さんの気持ちを、無視することが出来ませんでした。鈴音さんが苦しむ事になるかもしれない事も、煉獄さんの考えが、どこか歪んでいることもわかっていたのに…それを止められなかったんです。だから…私は謝られるような立場の人間でも、お礼を言われるような人間でもないんです」
しのぶさんはそう言うと、私からフイッと視線をそらした。
私は、しのぶさんの手に重ねていた自身の手に力を込め
「……しのぶさん。今度は、私の話、聞いてくれますか?」
と、問いかけた。すると、それに応えるように、そらされていたしのぶさんの視線が、私のところへと戻って来た。
私は、目が合ったしのぶさんにニコッと微笑みかけた後
「私はね……両親に、愛されていませんでした」
話を始めた。
しのぶさんは、まず始めに私が口にした言葉に驚いたようで、ただでさえ大きな可愛らしい目を、これでもかと言うほど大きく見開き驚いていた。
私は、そんなしのぶさんにもう一度微笑みかけると、話を続けるため、再び口を開く。
「母は父に愛されない事を嘆き、私を置いて死ぬ事を選びました。父は、私ではなく、母の代わりに妻の座を手に入れた継母を選びました。邪魔者、穀潰しと言われた私は、奉公に出され、生まれ育った家を追い出されました」
……あれ…おかしいな…?
不思議と、話していても胸が苦しくならなかった。