第17章 幸せな音が溢れる世界で
「女性にとって子を宿すということはとても大変なことです。まして鈴音さんは、隊士として戦うことを選んだ方です。そんな鈴音さんが、万が一、心の準備が整っていない状態でそうなってしまった時、悩み苦しむのは鈴音さんだと…そう煉獄さんにはお話ししたんです」
しのぶさんは、杏寿郎さんとのやり取りを思い出しているのか、なんだかいら立っている様子だった。心なしか、その形のいい眉も吊り上がっているように見え
……杏寿郎さんと…あの”不毛”ともいえるやり取りをしたんだろうな…
と容易に想像がついてしまう。
けれども、しのぶさんの吊り上がって見えた眉がフッと下がり、”ですが…”という言葉と共に物憂い気な表情に変わると
「…”子が出来れば鈴音は隊士を辞めてくれるかもしれない”。”鈴音を失うかもしれない恐怖から解放されるかもしれない”……そう言われてしまい、私はそれ以上何も言えなくなってしまいました」
と、私が知らなかった杏寿郎さんの気持ちを教えてくれた。
杏寿郎さんは基本的に私の気持ちをいつも尊重してくれていた。だからまさか、心の中でそんなことを思っていたとはつゆ知らず
「……杏寿郎さんが…そんなことを…?」
しのぶさんにそう問い返してしまう。
しのぶさんはそんな私の問いを肯定するようにゆっくりと頷いた後、真剣な表情で私をじっと見てきた。
「私は両親を、それから隊士になってからは姉を…鬼に殺され失いました」
「……」
人づてに聞いたことはあったが、この話をしのぶさんの口から聞くのは初めてのことで、私はただ、黙ってしのぶさんの話に耳を傾けた。
「姉は私よりも上背があり、頭もよく、穏やかながらとても強い心の持ち主でした……」
しのぶさんは、お姉さんである花柱様のことを思い出しているのか、しゃべるのをやめ、視線を床の方に向けながら珍しくぼんやりとしている様子だった。
その後再び視線を上げ、私の顔をじっと見て来た。