第17章 幸せな音が溢れる世界で
しのぶさんは下からのぞき込むように私の目をじっと見つめ
「言ったでしょう?私は、あなたが努力を重ねてきた事を知っています。小さな身体で、自分が出来ることを模索し、自分なりの戦い方を編み出してきた。それは私も同じで、自分でいうのもなんですが、それこそ血反吐を吐くほど努力してきました。……だらこそ、それを発揮することが出来なかった悔しさも、もどかしさも、想像に難しくありません。鈴音さんにあんな風に言いましたが、同じ状況になった時、私もあの場を去れる自信はありません。よく我慢しました。よく耐えました。鈴音さんは……とっても偉いです」
震える私の両手を取り、その小さく少し冷たい手で包み込んでくれた。
「…っ…しのぶさん…」
しのぶさんが掛けてくれた言葉の一つ一つが私の心にジワリと染み渡り、心を蝕んでいた罪悪感が徐々に姿を消していく。
こみ上げてくる涙をグッと堪え、しのぶさんを見つめ返していると、しのぶさんの笑みが、先ほどまでの穏やかなものから、呆れを含んだそれへと変わった。
……私、何か変なこと言ったかな…?
と、思ったものの、私はしのぶさんの名前を呼んだだけで、他には何も言っていない。
どうかしたのだろうかと首を傾げていると
「しぃて文句を言う相手がいるとすれば、その子の父親にあたる方ですかね」
と、しのぶさんが言った。
「…杏寿郎さん…ですか?」
しのぶさんは、私の問いに”はい”と答えた後、私の手を包んでいた手を放し、困りましたと言わんばかりに自身の右頬に右手をあて言葉を続けた。
「はい。煉獄さんです。…時期的に考えると、そのお腹の子は例の秘薬の件があった時の子だと考えるのが妥当ですよね?」
「……はい…恐らくそうかと」
「ですよね。私、あの時煉獄さんに、そうならないようにするためのお薬をお渡ししようとしたんです。なのに煉獄さんったら”そんなものは必要ない”と言って、断固として受け取らなかったんです」
しのぶさんの口から告げられたその事実に
「……嘘…」
と、思わず呟いてしまう。しのぶさんはそんな私の呟きに”嘘じゃありませんよ”と答えた後、さらに言葉を続けていく。