第17章 幸せな音が溢れる世界で
人様のベットに、外を歩いてきた格好で腰掛けるのはなんだかとても申し訳ないような気もしたが、本人が良いと言っているのを”汚いので!”とお断りするのも憚れ
「それでは…失礼します」
素直に座らせてもらう事にした。
しのぶさんは、私がベットに腰掛けたのを確認すると、机のところにあった椅子をズリズリと引きずりながら私の前へと移動し
「よいしょと」
と、わざとらしく言いながら腰掛けた。
それから正面に座る私へと視線を寄越し
「…あれから、体調は如何ですか?」
と、両眉の端を下げ、そう問いかけて来た。
私は
「…はい。特に何の問題もなく、過ごせています」
と、答えた後”…っあの!”と言いながバッと立ち上がった。
そしてその勢いのまま頭を深く下げ
「…っ…あの時は、たくさんご迷惑をかけてしまい、すみませんでした!」
謝罪の言葉を述べる。
「…私…本当に…自分のことしか考えられなくて…っ…しのぶさんが…私の身を案じて…あんな風に言ってくれているのもわかっていたのに……すぐに謝りに来ることも…お礼を言いに来ることも出来なくて……それで…」
ここへ来る道すがら、しのぶさんに何と言うか…たくさん考え、頭の中でたくさん予行練習してきた。その時は、きちんと話せていた筈なのに、実際に本人を目の前にすると、焦りや緊張で上手く話すことが出来ない。
……私…どうしてこんなになっちゃったんだろう…こんな風に感情に流されて…伝えるべきこともきちんと伝えられないなんて…最低だ…
もうそんな必要も無いというのに、習慣で着てきてしまった隊服のズボンの膝上あたりを握りしめ、情けない自分自身に対する嫌悪感を堪える。
すると
「顔を上げてください」
そんな言葉と共に、しのぶさんがグッと私に近づいて来た。
そして、私の両肩に優しく手を添え、下げている頭を上げさせるように、優しく力が込められる。
私がその力に抗うことなく顔を上げると、しのぶさんの優し気な瞳と視線がかち合った。