第17章 幸せな音が溢れる世界で
穏やかな気持ちで蝶屋敷に向かっていた私だが、到着が近づくにつれ、段々と不安な気持ちが大きさを増して来た。
それはもちろん、杏寿郎さんとのことに関するものが大半を占めるのだが
……しのぶさんに…改めて謝罪と…それからもちろんお礼も…しないといけないよね
あんな風に言わせてしまったこと、そしてさせてしまったことに対し、何も言わなくていいはずがない。
まだまだ療養、治療が必要な隊士はたくさんいるだろう。それでも、5分…いや、1分で良いからしのぶさんと話す時間が欲しい。
もしここに和がいれば、先に飛んで行ってもらい、しのぶさんに事前の約束を取り付けるところだが、あいにく今日は、一度音柱邸に文を届けに来た後、"鈴音が会いに行けない分、和が杏寿郎と一緒にいてあげるの!"なんて事を言いながら、杏寿郎さんのところへと戻っていってしまった。
……着いたらまず、杏寿郎さんの所じゃなくて、しのぶさんのところに顔を出してみよう
どんな反応をされるのか…些か不安な部分もあったが、私はこれ以上、しのぶさんから、そして杏寿郎さんから逃げる事は出来ない。…いや、したくない。
「……はぁ…」
思わず大きなため息を吐いてしまうと
ツンっ
と、ムキムキねずみが、私の頬に拳(果たしてネズミの小さなお手手が拳と呼べる状態のものなのかは疑問だが)を押し当てて来た。
「……頑張れって…言ってくれてるの?」
肩に乗る小さな、けれども逞しい身体へと視線を寄越しながらそう尋ねると
コクリ
と、ゆっくり頷いた。
そんな様子に
「……ありがとう」
とお礼を述べると、私の頬に埋めていない方の手を、自身の顔の高さまであげ
ムキッ
と、鍛え抜かれた上腕二頭筋を見せつけるような格好をしてみせた。
ムキムキねずみらしい独特な励まし方に
「…ふふっ…」
思わず笑みをこぼしながら、草、鳥、そして虫の音が聴こえる道を、1人…ではなく、ムキムキねずみと共に歩き続けた。