第17章 幸せな音が溢れる世界で
私は言われた通りに身を起こし
「まだほとんど出ていませんから潰れやしませんよ。気の早い師範ですね」
揶揄い口調でそう言って見せた。
すると天元さんは
「……っ…俺様を揶揄ってる暇があんならさっさと蝶屋敷に行きやがれ!こんの馬鹿弟子がぁ!!!」
私のことを怒鳴りつけてきた。けれども、その頬はわずかに赤く染まっており、自分の発言を恥じていることが窺い知れ
「……うるさいんですけど…」
耳を塞ぎ文句を述べながらも、初めて見る天元さんのそんな表情に自然と口元が緩んでしまう。
「…っ…笑ってんじゃねえ!!!」
邸中に響き渡る私を怒鳴りつけるその声は、嘗ての私なら激しい嫌悪感と恐怖を抱いたに違いない。けれども、今の私はもう違う。
「…私はいいですけど、そんな風に私を怒鳴りつけてると……ほら」
最近では割と頻繁に耳に入ってくるようになった
バタバタバタバタ
という足音が近づいて来たかと思うと
「天元様!鈴音ちゃんを怒鳴りつけるのはやめてください!”ストレス”ってやつがたまって、赤ちゃんに何かあったらどうするんですかぁ!?」
おたまを片手に持ったままの須磨さんが現れた。
天元さんはそんな須磨さんの様子に
はぁぁぁぁぁぁ
と、今日一番の深く、長い溜息を吐くと
「……頼むから…さっさと蝶屋敷に行ってくれ」
額に手をあて、げんなりという言葉がぴったりな様子でそう言ったのだった。
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須磨さんが蝶屋敷まで私を送ってくれると言ってくれたのだが、"その気持ちだけで十分です"と丁重にお断りさせてもらった。
けれどもその代わり
「あなたとこうして道を歩くのも…なんだか随分と懐かしい気がする」
私の肩には
ムキ…ムキムキッ
と、鍛え抜かれた筋肉を誇示するネズミが乗っていた。
…蝶屋敷に行くだけなのに…雛鶴さんまきをさん須磨さんったら過保護なんだから
そんな風に思いながらも、大好きな3人に心配されるというこの状況に、満更でもない気持ちだった。