第17章 幸せな音が溢れる世界で
……っ…それこそ…私の都合のいい想像だ…
頭に浮かんできた喜んでいる杏寿郎さんの姿を追い出すように、頭を左右にブンブンと振った後
「……っ…でも…」
私はまた、杏寿郎さんに会いに行かない理由を絞り出そうとした。
けれども
「でもじゃねぇし。お前さ、あんだけ馬鹿みたいに真っすぐ好かれてて、なんであいつの気持ちがわからねぇの?俺が怒ってんのはそこ。あんなに好かれてるくせに、相変わらず過去だとか周りの目だとかそんなもんばっかに囚われがって…なんで一番見てやるべきあいつのことを見てやれねぇの?もはやあいつが哀れだわ」
なんて事を言われてしまい
「………」
その通り過ぎで、何も言えなくなってしまった。
俯き黙り込んでしまった私の様子に
「………はぁ…」
天元さんは、再びため息を吐いた。
……あぁ…また呆れられてしまった
そう思い、下に向けている顔を更に下へと向けた時
「心配すんな」
そんな天元さんの声が聞こえ、自然と肩がピクリと反応してしまう。恐る恐る顔を上げ天元さんの顔を見てみると
「…っ…」
呆れた表情は相変わらずだが、その中に確かな優しさを含んだ視線が、私へと向けられていた。
包帯を巻かれ、素肌のほとんどが隠れてしまっている私の2倍以上の太さを有する腕が、私の頭の方に伸びてきた。それから
ボスっ
と乱暴な手つきで私の頭頂部に、大きな手のひらをのせると
「万が一、煉獄の野郎が一瞬でも戸惑った顔をすることがあったら…お前も腹の子も、ずっと俺たちと住みゃぁいい」
”んなことありえねぇと思うがな”、と言いながら、私の髪をわしゃわしゃと乱すように撫でてくれた。
つい先ほどまで、”いつまで居座るつもりだ”なんて言っていた人物の口から発せられたものとは思えないその言葉に
「……いいん…ですか…?」
目も口も、両方ぽかんと開けた状態で、思わずそう尋ねてしまう。