第17章 幸せな音が溢れる世界で
だからと言って杏寿郎さんもそうとは限らない。先ほど天元さんが私に言った通り
”信じられないほどの馬鹿者だな”
と言われてしまうかもしれない。
それを言われてしまったとき、果たして私はどうなってしまうのか。
信じられないほどの馬鹿者が、自分の子を身ごもっていると知ったとき、いったいどんな反応をするのか。
それを考えると、杏寿郎さんい会いに行くのが怖くて怖くてたまらなかった。
ジワリとこみ上げて来る涙を堪えようと、グッと唇を嚙み締めたその時
「お前、何勘違いしてんだ?」
と、天元さんが言った。
その口調は、先ほど私を責めていた時の口調とは異なり、わずかな優しさを含んでいる気がした。
恐る恐る視線をずらしていくと、呆れた顔で私を見ている天元さんと目が合う。
私と目が合った天元さんは、”はぁ…”とわざとらしくため息をつくと
「俺はな、お前が戦わなかったことに関しちゃなんとも思ってねぇよ。いやむしろ、そんな身体であの場にいたら、死ぬほど説教して、ここに放り込んでたわ」
円卓に肘をつき、気だるげな表情を浮かべそう言った。
そんな天元さんの様子に
「………」
目じりに涙を浮かべたまま、その顔を凝視してしまう。
天元さんはそんな私に…”ひでぇ顔”と、これまた呆れ顔で言った後、フッと真剣なそれに変わり、私の下腹部へと視線を移した。
「お前、ひとりで赤ん坊孕める特殊体質の持ち主か?」
思ってもみない素っ頓狂な問いに
「…そんなわけ…ないじゃないですか」
思わず、微妙な表情になってしまう。
天元さんはそんな私の様子を全く気に留めず”だろう?”と言うと、私の下腹部に向けていた視線を上げ、私の顔をじっと見てきた。
「だったら一人でくそみたいに暗ぇ想像してねぇで、子ができたって、お前をそうした煉獄に教えてやれよ。飛び上がって喜ぶぜ?」
「……」
天元さんの言葉に、私の後ろ向きな想像を心の奥にしまい込み、杏寿郎さんのこれまでの言動を冷静に振り返ってみる。
すると
"本当か!?"
と、目を輝かせ驚く杏寿郎さんの姿が、想像できなくもない。