第16章 私が守るべきもの
そんな苗場さんの問いに、二人は顔を見合わせたあと
「ないわ」「ないよ」
と、声を揃えて言った。
「天元様は…何があっても絶対、ここに帰って来るから。伝えたいことは、自分たちの口で伝えるわ」
雛鶴さんの後ろにいた私は、苗場さんに向けそう言った雛鶴さんの表情がどんなもかは見えなかった。それでも、その後ろ姿も、そして声色も、とても凛としていて
……本当に…なんて素敵な人なんだろう
と、改めて思わされる。
「…わかりました。それでは、これにて失礼します」
苗場さんはそう言いながらスッと頭を下げ、再び顔を上げると
「…あとで祝いの飯でも食いに行こうな」
私に向けニッと明るい笑みを向けてくれた。
「………はい…」
あれほど流れていた涙は、もう止まっていた。
その後苗場さんは、あっという間に走り去って行き、玄関には雛鶴さんまきをさん須磨さん…それから私の4人にだけになった。
すると
「…居間に戻りましょうか」
雛鶴さんが、私と須磨さんがいる方にくるりと振り返りながら言った。
「そうですね!鈴音ちゃん疲れているでしょう?雛鶴さんがお茶を入れるので、しっかりと身体を休めてください」
須磨さんはそう言いながら、私の腕に腕を絡め廊下を進んでいく。
「あんたねぇ…それくらい自分でいれなさいよ」
そう言うまきをさんの呆れたような声や
「だってだってぇ!私がいれたお茶よりも、雛鶴さんがいれた方がおいしいじゃないですか!」
「……確かにそうね」
「はいはいいれてあげるわよ。でも鈴音にはあまりお茶は良くないから、白湯をいれてあげましょうね」
穏やかな雛鶴さんの声が聞こえ
……あまりにも普通過ぎて…最後の戦いの最中だってことを忘れてしまいそう…
なんてことを考えてしまった。
けれども
「「「「………」」」」
お茶を手に(私には白湯だったが)卓を囲んでいても、いつものような会話はなく、誰も積極的にはしゃべろうとしない。