第16章 私が守るべきもの
私はそんな雛鶴さんの顔を、力のない目で恐る恐る見つめた。
「私たちがこうして鈴音と知り合えたのは、確かに天元様がきっかけよ?鈴音がここに稽古に来るようにならなければ、出会ってすらいないかもしれない。でもね、きっかけは天元様だったかもしれないけど、今の私たちには、もうそんなのは関係ないの」
雛鶴さんが私の顔を優しく両手で包み込み、ボロボロと流れる涙を両方の親指で掬い取ってくれる。
それからニッコリと微笑むと
「私たちみんな、”天元様の継子”だから鈴音を好きなんじゃない。まじめで頑張り屋で、好きな人には中々素直になれない…そんな鈴音が好きなの。鈴音がどんなに自分の事を嫌いになろうと、どんなに自分自身の事を責めようと…それは絶対に変わらないわ」
止まる気配のない私の涙を、何度も何度も、自身の手が涙で濡れてしまうことなど全く構わないと言わんばかりに拭い続けた。
そんな言葉と行動に
「…っ…うわぁぁぁぁぁぁん」
私の涙腺も、感情の制御装置も、木っ端みじんに壊れ
ドンッ
突進する勢いで、雛鶴さんの身体に抱き着いた。
そしてそんな私と雛鶴さんを巻き込むように
「…本当に…鈴音は馬鹿だよ…馬鹿で馬鹿で…可愛くってしょうがないよ」
まきをさんが
「まきをさんの言う通りです…!私の大切なお友達を傷つけるのは、例えそれが鈴音ちゃん自身であっても許さないんですからね!」
須磨さんが両手を広げ抱きしめてくれた。
そんな3人に
”ごめんなさい”
と言おうと口を開きかけるも
「あぁあっ!”ごめんなさい”はもう無しです!鈴音ちゃんはなにも悪いことはしていません!駄目っ!」
須磨さんがそう言いながら私の耳辺りにグリグリと頭部を押し付けて来た。
そんな行動に
……ちょっと痛い……でも…それ以上に…嬉しい
「…っ…は…はい…」
目の前にある雛鶴さんの胸元に顔を埋めそう答えた。