第16章 私が守るべきもの
空はまだ暗く、おそらく日の出までもう少し時間が掛かる。本来であれば戦っていなければならない筈の私が、ほぼ無傷の状態で、苗場さんと共にこんなところに現れたとなれば、不審に思うに決まっている。
どうしてここに?
天元様だって戦っているのになぜ?
あれだけ色々教えて来たのに何をしてるの?
雛鶴さんまきをさん須磨さんがそんなことを言ってくるような人じゃないことはわかっている。わかっていても、私の中に巣くう、どうしようもなく後ろ向きな私が、そんな妄想を私の頭に思い浮かばせた。
……怖い…
自分を抱きしめるようにしながら突っ立っていると
「すみませぇ~ん!」
「…っ!?」
いつも間にか音柱邸の門をくぐり、玄関扉まで開けていた苗場さんが、大声で邸の中に向け声を掛けていた。
慌てて駆け寄り、引き留めようとしたものの
「苗場さ「宇髄様の奥方様ぁ~!いらっしゃいますかぁ~!?」」
苗場さんは、慌てる私を綺麗に無視し声を掛け続ける。
すると
ドスドスドスドス
と、この邸に住む住人が立てる音とは思えない足音が、こちらへと近づいてくる。
咄嗟に身を隠したい衝動に駆られたが、そんなことを出来るはずもなければ、私を逃がさないように、或いは落ち着かせるようにと両肩に置かれた苗場さんの両手が、それを許してくれそうになかった。
ドスドスと足音が近づいて来るにつれ
ドクドクと私の心臓が嫌な音を立てる
そして
「もぉぉぉぉ!こんな時にいったいなんの用ですかぁ!?私たち今とっても忙し……って鈴音ちゃんじゃないですか!?!?」
大層ご立腹な様子の須磨さんが、文句を言いながらやって来たのだが、苗場さんと共にいる私の存在に気が付くと、絵にかいたような驚きの表情を浮かべ、私の方へと駆け寄って来た。
そして
ドドドドドドドドド
これまた聞いたことのないような足音と共に
「鈴音!?」「鈴音だって!?」
雛鶴さんとまきをさんが、互いに競い合うかの如く、もの凄い勢いでやって来た。