第16章 私が守るべきもの
「ちょっと位置変えるから、腹気をつけてくれよ」
"よっこいしょ"と、わざとらしい台詞を付けながら私を抱え直した苗場さんは、"俺がな…"と、徐に喋り始めた。
「鬼殺隊に入ったのは、妹を殺された復讐を果たすためだ。両親を早くに亡くした俺にとって、妹はたった1人の家族だった」
「……そう…だったんですね…」
「あぁ。妹はな、母ちゃんに似て小柄でな、なんとなく荒山と雰囲気が似てた。だから、さっき胡蝶様にも言った通り、お前のこと、勝手に妹みたいに思ってた」
そう言われて、特に嫌な気持ちになることはなかったが
……なんで…今その話をするんだろう…?
と、疑問が頭に湧いて来る。
苗場さんは、そんな私の顔をチラリと見ると
「男とか女とか…隊士として戦って来た荒山はそうやって括られるの嫌いだろうし、勝手に妹と荒山を重ねて迷惑だって思うかもしれないがよ……俺個人としては、お前が、炎柱様と幸せになってくれればなって思ってる」
そう言って、ニッと微笑みかけてきた。
穏やかに語り掛けるような苗場さんの言葉は、間違いなく私を元気づけてくれるために発せられた言葉だというのに
”そんな風に言ってもらえる資格、私にはない”
心の中でそう思いながら
「……はい…ありがとうございます…」
口先だけのお礼の言葉を述べたのだった。
隠となっても、現役隊士に負けず劣らず呼吸を使える苗場さんは、戦いの舞台になった街から音柱邸までそう遠くなかったこともあり、体感1時間程度で音柱邸にたどり着いてしまった。
その間自分で歩くと何度も言ったのだが、”何だ?俺がお前を抱えて歩けねぇとでも思ってんのか?”と言われてしまい、結局、最後まで運んでもらうことになってしまった。
音柱邸に着き、門の前でようやく降ろしてもらえたのだが
……どうしよう…どんな顔で…会えば…
私は降ろしてもらった場所から、足を1歩も踏み出せずにいた。