第16章 私が守るべきもの
小さくなっていくしのぶさんの背中をぼんやりと見ていると
「ほら。行くぞ」
苗場さんが声をかけて来た。
けれども私はいろんな感情で頭も、そして心もぐちゃぐちゃになってしまい
「………」
何も答えることが出来なければ、もちろん動くこともできなかった。
すると苗場さんは、立っていた場所から私の目の前までズンズンと歩いてくると
ヒョイっ
と、私の身体を抱き上げた。
普段の私であれば、"やめてください"だとか"おろしてください"などと言い、その行為に対して抗議の意を示すのだが
……もう…疲れちゃった…
それをする気力が、もう全くと言っていいほどなかった。
苗場さんは、私のお腹に負担がかからないように気遣いながら半横抱きのような体制で私を抱いており
「軽っ。ちゃんと飯食ってんのかよ」
などと言いながら、喧騒から逃れるように、街の外れへと歩き始めた。
あれほど激しい戦いの場にいたことがまるで嘘のように静かな道を、苗場さんに抱き上げられたまま進む。
轟音
雄叫び
金属音
そんな音と相反する静けさの中にいると、まるで先程までの出来事が夢だったのではないかとすら思えてしまう。
けれども
「その……腹の子の父親は…炎柱様なのか?」
苗場さんのその問いが、私に現実を突きつけて来た。
答える気になれなかったが、これだけ多大な迷惑を掛けてしまっている苗場さんの質問を無視する事もできず
…コクリ
小さく頷くことで返事をした。
すると苗場さんは
「だよなぁ。隠の間では、炎柱様は音柱の継子に夢中だ…だとか、いちいち周りを牽制するくらいなら、さっさと夫婦になればいいのに…だとか、結構話題になってたんだぜ?」
明るい口調で、そんな事を言ってきた。
やはり何も言わないわけにもいかず
「…そう…ですか」
と、気のない返事をする。
そこで会話は途切れてしまい、私と苗場さんを、再び沈黙が包み込んだ。