第16章 私が守るべきもの
「…っしのぶさん!!!」
私に関する重要な事を、私に許可なく苗場さんに話してしまったことを非難するようにその名を呼んだが、しのぶさんは全くひるむ様子を見せない。
「このままここに居れば、無理をしてしまう可能性も、戦いに巻き込まれてしまう可能性も高いです。ですから安全な場所…尚且つ、鈴音さんがこれ以上無理をしないよう見張ってくれる人がいるところまで、この人を送って行ってもらいたいんです」
"そんな必要はありません"
と、私が言うよりも早く
「わかりました」
苗場さんがそう答えた。
「…っ!?」
私は、苗場さんが、しのぶさんの滅茶苦茶なお願いを受け入れるとは思っておらず、驚愕した。立て続けに起こる予想外の状況を理解しようと、懸命に頭を動かしている間に
「話の通じる方で良かったです。それでは私はもう行きますので…鈴音さんのこと、どうかよろしくお願いします」
「はい。任せてください」
当事者である私を置いてけぼりにし、話は進んで行ってしまう。
けれども
「…っそんな必要はありません!私…ただでさえこうなった事で周りに迷惑を掛けているのに……っこれ以上誰かの手を煩わせるような事…したくありません!」
私は、しのぶさんに向け必死で訴えかけた。
しのぶさんは、激しい戦いの音がする方へと向けていた身体を、再び私の方へと戻した。それから急足で近づいてくると
「…あなたにとって今1番大切なことは、周りに迷惑を掛けたくないだとか、手を煩わせたくないだとか…そんな小さな事ではないはず。あなたが今、1番大切にするべきもの、そして1番守るべきものは……ここに宿った命です」
私の両手を取り、子が宿っている下腹部へと持っていった。
そんなしのぶさんの言葉と行動に
「……っ…」
私は、それ以上何も言うことが出来なかった。
しのぶさんは、重なり合った私としのぶさんの手を見たまま黙り込む私からそっと手を離し
「では、私は行きます。……苗場さん」
「はい」
「私の大事な友人を、どうかよろしくお願いします」
「はい!」
最後にそう言うと、秘薬の反動のせいか、普段のそれと比べるとかなり重い足取りで去っていった。