第16章 私が守るべきもの
私は、しのぶさんの問いに対する苗場さんの答えに
……苗場さん…私のことそんな風に思ってくれてたんだ…
とても驚いていた。
…あんな出会い方をして、嫌われていたとしても仕方ないのに…苗場さん…やっぱりすごくいい人だ
私は、そんなことを考えながら、苗場さんのことをぼんやりと見ていた。
けれども
「ならば話が早いです。これからあなたに特別任務をお願いします」
しのぶさんのそんな言葉に、私は、苗場さんへと向けていた視線を、しのぶさんへと移した。
……特別任務って…この状況で、苗場さんに何を頼むんだろう…?
そう思っていたのはもちろん苗場さんも一緒で
「特別任務…それは、どういったものでしょうか?」
訝し気な表情を浮かべながら、しのぶさんにそう問いかけていた。
しのぶさんはちらりと私の方へと視線を寄越した後、苗場さんの顔を真剣な表情で見つめ
「ここにいる荒山鈴音さんを、音柱邸まで送って行ってください」
とそう言った。
思ってもみないしのぶさんの言葉に
「…え…?」「…は…?」
私と苗場さんの困惑した声が重なる。
けれどもすぐに我に返り
「…っ待ってください!私…どうして…っ…そんな必要…ないじゃないですか!!!」
半ば叫ぶように、しのぶさんに言ってしまう。
そんな私に反し、しのぶさんは至って冷静な様子で
「いいえ、必要なことです」
ときっぱり言った。
黙ったまま、睨み合うようにしのぶさんと顔を見合わせていると
「…俺は、俺がそれをしなければならないのであれば、その指示に従います。ですが、それをしなければならない理由を、お教えいただきたい」
苗場さんが、私としのぶさんの間に割って入るようにしながらそう言った。
すると
「鈴音さんは今、妊娠されています」
しのぶさんが、私の顔をじっと見たままそう言った。