第16章 私が守るべきもの
しのぶさんは、視線を逸らす私の視界に入り込むようにスッと身を屈めると
「あなたの気持ちも考えず、厳しいことを言ってすみません。ですか、どうか鈴音さんと…鈴音さんのお腹に宿ってくれたその子の身を案じる私の気持ちも理解してください」
先ほどまでの怒った表情から、普段の穏やかな表情へと戻りそう言った。
私も、歪みそうになる顔をグッと堪え
「……はい…」
懸命に笑みを浮かべた。
「下手っぴな笑顔ですね」
しのぶさんはそう言いながら、私の頬をツンッと人差し指の先で突いた。それから私の右腕に、その腕を絡め歩き始める。
「……すみません」
極小さな声でつぶやいた私の謝罪は、しのぶさんの耳には届かなかったようで、私の腕を引き歩くしのぶさんの斜め後ろを、ただただ着いていくことしか出来なかった。
大通りに差し掛かったその時、目の前を比較的体格のいい隠の男性が通り過ぎた。しのぶさんは私の腕からその腕を離し、その人を追いかけると
「そこの隠のお方」
離れていく背中に向け声を掛けながら、角を曲がって行く。私も、しのぶさんを追いかけて角を曲がると、声を掛けられた隠の男性が、駆けていた足を止め振り返り
「…俺のことですか?」
自分の顔を指さしているところだった。
その顔は、私がよく知った顔で
「……苗場さん…」
「荒山!無事でよかった!」
しのぶさんの側にいる私の存在に気が付くと、私へと駆けよって来てくれた。
「…あなたと鈴音さんは、お知合いですか?」
しのぶさんが、苗場さんにそう問いかけると
「っ胡蝶様!大変失礼しました!」
苗場さんは、自分に声を掛けてきたのが、柱であるしのぶさんであることにようやく気が付いたのか、大層慌てた表情を浮かべ、頭が膝についてしまう程の勢いで頭を下げた。
「謝罪は結構ですよ。それよりも、先ほどの質問の答えを聞きたいのですが」
苗場さんは、ものすごい勢いで顔をあげると
「はい!隊士だったころ、荒山には世話になりまして!それ以降、一方的にではありますが、妹のように気にかけさせていただいております!」
畏まった様子でそう答えた。