第16章 私が守るべきもの
「ですか」
しのぶさんのその言葉に、私の中の緊張感が最大限まで増した。
依然として激しい戦いの音は聴こえてくるはずなのに、しのぶさんの声しか聴こえないような、そんな不思議な感覚に陥っていく。
しのぶさんは、私の両肩をガシッと掴み、顔を真正面からじっと見ると
「あなたの代わりは、探せばいくらでも見つかります」
そう言った。
私はその言葉に
「…っ…!」
ただ顔を歪め、黙り込むことしか出来ない。
「誤解しないでください。私は決して、あなたという存在を軽んじている訳ではありません。小さな身体で、自分ができ得る最大限の戦いをするあなたに、尊敬の念すら抱いています。ですが、そんな鬼殺隊士としての鈴音さんの代わりが出来る人がいても、そこに宿った命を育めるのは…あなたしかいないんです」
しのぶさんは私の肩を掴む力を強めた。
「真面目で責任感の強い鈴音さんの事です。目の前に傷だらけの隊士がいたら、戦うべき相手が現れたら、自然と身体が動いてしまうでしょう?私も…それから、あなたの事情を知る善逸君も、そんなあなたがそばにいると、自分のするべきことに集中できないんです」
「………」
しのぶさんが発したそれらの言葉は、何一つ間違っている部分などなく、自分の身体のことも、それから周りのことも考えられない"浅はか"な自分"が、嫌で嫌で堪らなくなった。
……今の私に……出来ることなんてないんだ……唯一あるとすれば……戦うみんなの…邪魔にならないこと……それだけだ
その事をようやく理解した私は
「……わかり…ました……余計な時間を取らせてしまい…申し訳ありません…」
しのぶさんから視線を逸らし、ただただ謝ることしか出来ない。
……私…何やってるんだろう…私とこうしている間に…しのぶさんなら…たくさんの人を診てあげることが出来るはずなのに…っ…どうして…こんなに役立たないどころか…みんなに迷惑を掛けてるの……
情けなすぎで涙も出なかった。