第16章 私が守るべきもの
しのぶさんは、そんな私の下腹部をじっと見つめ
「今あなたが言っていることは、”そのお腹にいる子がどうなろうが構わない”…と、言っているのと同じことです」
そう言い放った。
「…っそんなことはありません!しのぶさんには聞こえなくても、私にはちゃんと…この子の鼓動が聴こえてるんです!」
私は一旦言葉を切り
…ドッドッドッドッドッドッ
小さな鼓動だけを聴きとれるよう、自分の下腹部へと意識を集中する。
「…っほら!今だってこんなに元気な音を立てています!だから…っ…」
言葉を続けようとした私だが、フッと近づいて来たしのぶさんの手が私の下腹部に触れたことに驚き、思わず口を噤んだ。
「許可なく触れてしまい申し訳ありません。ですか、鈴音さん。あなたのその考えは、とても浅はかです」
"浅はか"
しのぶさんが発したその言葉が
トスッ
と、まるでクナイが的に刺さるかのように、私の心に刺さって来た。
「今この瞬間は、そうかもしれません。ですが、お腹に子を宿し育てると言うことは、そんなに簡単なことではありません。今の無理が、明日、明後日、あるいはもっとその先に、その子の命を脅かす可能性が十分にあり得るんです」
そんなしのぶさんの言葉に、私の身体が更に冷たくなっていく。
「……」
顔を強張らせ固まっていると、私の下腹部に注がれていたしのぶさんの視線が、私の顔へと移ってきた。
穏やかな夜の色をしたしのぶさんの瞳が、まるで奥の奥まで覗き込んでくるように、私のそれをじっと見据えてきた。
「はっきり言います」
その先に続く言葉は一体どんなものか
不安が込み上げ、思わずズボンの裾をギュッと握りしめた。
「確かにあなたは、独自の呼吸を編み出し、柱である宇髄さんの継子として申し分のない実力をお持ちです。分析能力、対応能力、そして応急処置能力など、多岐にわたる才をお持ちで、一般隊士とは呼べないような力を持っています」
それらの言葉は、意味だけを切り取れば私を誉めてくれているものの筈なのに
「………」
私にとって良いものには聞こえず、隊服を握る手の力が増していく。