第16章 私が守るべきもの
しのぶさんは、私の身体に異常がないと判断したのか
「私は応急処置に向かいます。あなたは何処かに身を隠していてください」
羽織や隊服の内側にしまっていたと思われる薬や包帯の数を確認しながら私から離れていく。
「待ってください!私も行きます!」
そんなしのぶさんに、慌てて声を掛けると、しのぶさんがピタリと立ち止まった。それからゆっくりと私の方へと振り返り
「…先ほど、私が鈴音さんになんと言ったか、もうお忘れですか?」
優し気な笑みを浮かべながらそう言った。けれども
「…っ!」
しのぶさんの表情は、確かに微笑んでいるそれなのに、その雰囲気は明らかに怒っているもので、思わず息をのんでしまう。
それでも
「それは…っ…わかっています!でも…私も、自分が出来ることはしたいんです!戦うことは出来なくても、しのぶさんと一緒に傷ついた人達の手当をして回ることは出来ます!」
未だ激しく戦っているみんなを尻目に、ただ隠れていることなんて出来るはずがない。
けれどもしのぶさんは、私の発した言葉に対し、なにも言ってくれる様子はなく、無言で、睨むように私をじっと見るのみだ。
普段はあんなにも穏やかで優しいしのぶさんの無言の威圧はとても怖く、思わず後ずさりをしてしまいそうになる。
それでもやはり、引き下がることは出来ず
「…っこんな街中です!応急処置だけじゃなく、一般市民の避難も必要ですよね!?戦いに参加できなくても、私にも出来ることが…しなければならない事が、沢山あります!!!」
私は、立ち止まるしのぶさんの横を通り抜け、怒号や轟音が聞こえてくる方角へ向かおうと歩き始めた。
けれども
パシッ
しのぶさんの手が私の手首を掴み、それを阻止されてしまう。そして
「あなたはやはり、私が言ったことを何ひとつ理解していないようです」
しのぶさんが冷めた声色でそう言った。
そんな様子に
サーッ
と、私の背中が一瞬で冷たくなる。