第16章 私が守るべきもの
ようやく呼吸が落ち着いた私は
「…っ余計な時間を取らせてすみません」
しのぶさんに謝罪の言葉を述べた。
「いいえ。あなたのお陰で私たちは、あの場を怪我を負うことなくやり過ごせました。こちらがお礼を言うことはあれど、謝られることはありません」
しのぶさんはそう言ってくれたものの、"ですが"と言葉を続け、厳しい表情を浮かべた。そして
「あなたの身体は、もうあなただけのものではありません。もう絶対に、あんな無茶をしてはいけません」
私の手首に右手の人差し指と中指を当て脈拍を確認したり、顔色や瞳の様子を観察しながらそう言った。
しのぶさんのそんな言葉に
「……どうして…それを…?」
私は蚊の鳴くような声で尋ねてしまう。
しのぶさんは、最後に私の首に手を当て異常がないか確認すると
「珠世さんが教えてくれました」
と、そう答えた。
「……なるほど…」
愈史郎さんも、私の腹に子がいることを気がついていた。ならば珠世さんも、それに気がついていない訳がない。
…匂いでわかる……か
下腹部に手を伸ばしそこを撫でてみると、確かに以前に比べ、心なしか出っ張っている気がしなくもない。
「煉獄さんは、その事をご存知なのですか?」
しのぶさんのその問いに
「…いいえ…私自身も知らなくて……あの場所に落とされる直前に…善逸に言われて…初めて気がつきました……だから杏寿郎さんは…知りません」
私は正直に答えた。
「……そうですか」
考えてみれば、おかしな所はたくさんあった。
思う通りに動かなくなった身体。過敏になった感覚。月のものも、確かにここ数ヶ月来ていなかった。
けれどもそれは、寝る間も惜しんで秘薬の調合をしたり、天元さんや杏寿郎さん以外の柱に稽古を付けてもらえるのが楽しく、普段よりも多めに稽古をしてしまったり。それに、しのぶさんと珠世さんの手伝いで、慣れない座り仕事ばかりしていたなど、そう言った環境の変化が重なり、調子が狂ってしまったからだと思い込んでいた。
……気が付かないなんて…私…なんて馬鹿なんだろう
我ながら、あまりにも鈍い自分に呆れてしまう。