第16章 私が守るべきもの
すると視界に入って来たのは、善逸を背負っている杏寿郎さんと
「上弦の壱がいる場所を探すのなら俺じゃなくて伊之助でもいいじゃないですかぁ!?!?伊之助の方が元気だし、俺じゃなくて伊之助を連れて行ってぇぇえ!!!」
杏寿郎さんに背負われ、半泣きになっている善逸の姿だった。けれども杏寿郎さんは、背中で大騒ぎする善逸の事など全くと言っていいほど意に介さず
「だからこそ嘴平少年にはこちらに残ってもらう必要がある!我妻少年は、ただ俺を上弦の壱のもとに案内してくれればそれでいい!では行くぞ!」
と、善逸の主張を受け入れる様子はない。善逸も、杏寿郎さんが良い意味でも悪い意味でも”こうすると決めたことは何があっても変えない”という性質を理解しているようで
「……わかった…わかりましたよぉ~」
と、杏寿郎さんの後頭部に額を押し当てながら答えていた。けれども、伊之助君はその話に納得がいかないようで
「何言ってんだ!俺も一緒に連れていけ!」
伊之助君が、左右に持った日輪刀をブンブンと振り回しながらそう言った。杏寿郎さんはそんな伊之助君の主張に”だが…”と言葉を詰まらせ、珍しく悩んでいる様子だった。
けれども
「こちらは大丈夫です。私は秘薬の反動が表れるまで、あと1時間ほどの猶予があります。カナヲに至っては、煉獄さんもご存じの通り、まだ飲んでもいません」
しのぶさんがそう言った。更に
「見たところ、あなたもまだ秘薬は飲んでいないですよね?いざとなったらそこの彼に頑張ってもらうので大丈夫です。ね?」
そう言いながら、村田さんに向け微笑みかけた。
村田さんは、まさか自分に話が振られるとは思っていなかったようで
「へ?俺?」
自分の顔を、自らのそれで指さしながらキョトンとしている。
けれども
「……ね?」
有無を言わさないしのぶさんの綺麗な笑顔に
「っはい!全身全霊で頑張らせていただきます!!!」
頭の先からつま先までをピンッと張らせ、そう答えた。