第16章 私が守るべきもの
私はそんな杏寿郎さんの言葉に
「……っ…」
顔を強張らせ、黙り込んでしまう。すると
「どうかしたか?」
杏寿郎さんが、私と視線の高さを合わせるように身を屈めながらそう尋ねて来た。
"なんでもありません"と、誤魔化してしまおうとも思った。けれども、杏寿郎さんに聞いてほしいと思う気持ちの方が優ってしまい
「……その上弦の陸…獪岳だったんです…」
私は、呟くような小さい声でそう言った。
すると、普段から見開かれがちの杏寿郎さんの目が、更に大きく見開かれる。
「…っ…でも…私は…全然…っ戦ってなくて…善逸が…1人で…戦ってくれて…」
話している間に
情けない
申し訳ない
恥ずかしい
色んな感情が込み上げ
……っだめ…これ以上喋ると…泣いてしまいそう
涙が溢れてしまいそうになり、口をムッと閉じた。
そんな私に
「…我妻少年は、君のことをとても慕っているからな。自らそうしたいと言ったのだろう?君が恥じる必要もなければ、君と我妻少年が決めたことに、何人たりとも口を出す権利はあるまい」
「……っ!」
杏寿郎さんは、そんな優しい言葉をくれ、更に
「何もせず、ただ見守らなければならないのは辛かっただろう?よく頑張ったな」
先ほどとは違い、優しく、包み込むように抱きしめてくれた。
まさかそんな言葉をかけて貰えるとは思っておらず
「…っ…ありがとう…」
私は結局、杏寿郎さんに縋り付くようにしながら泣いてしまった。
「俺の大切な人の心と身体を守ってくれた礼を、我妻少年に礼を言わねばならないな!」
杏寿郎さんはそう言いながら、私の背中を優しく撫でた。
「……はい…」
私がそう返事をした直後
「お取り込み中のところすみません。ですが今し方、輝利哉様から鴉を通じて指示が来ました。余力のある隊士は、上弦の壱との戦闘に合流するように、とのことです」
しのぶさんが、申し訳なさげな表情をしながら近づいて来た。