第16章 私が守るべきもの
結局しのぶさんは、今の杏寿郎さんに何を言っても無駄だという結論に至ったのか、"私たちが移動しましょうか"と言いながら、栗花落さんと共に角を曲がって行った。
先程こちらに来た村田さんも、ぎゃいのぎゃいのと騒いでいる善逸と伊之助君を連れ、しのぶさん達と同じように角の向こう側へと行ってしまった。
いらぬ気を遣わせてしまい
……もう…杏寿郎さんったら…相変わらず人の話を聞いてくれないんだから
と、思ってしまった。
けれどもその一方で
……無事に会えて…本当に良かった
杏寿郎さんが私にそう思ってくれたのと同じように、私もこうして杏寿郎さんに抱きしめてもらえる事が、そして抱きしめてあげられる事が、嬉しくてたまらなかった。
それから程なく
「皆に随分と恥ずかしい姿を見せてしまった。柱として不甲斐ない」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、杏寿郎さんがそう言いながら私の身体をゆっくりと離した。
すっかりと大人しくなってしまった杏寿郎さんに、小言を言う気にはなれず
「……羽織に随分と血がついているようですが、怪我は大丈夫ですか?」
そう言いながら、杏寿郎さんの頭のてっぺんからつま先まで、ゆっくりと視線を巡らせた。
「大事ない。胡蝶が全て処置してくれた。自分の方が俺よりも重症にも関わらずここまでの処置を施せるとは、彼女は本当に素晴らしい医師であり同僚だ!」
「……そうですか…」
しのぶさんが応急処置を施してくれたのであれば、私の出る幕はないだろうとホッと胸を撫で下ろす。
「鈴音はどうだ?どこか怪我などしていないか?君は我妻少年と行動を共にしていたのだろう?」
杏寿郎さんは、私に向け矢継ぎ早に質問を投げかけながら、先程私が杏寿郎さんにしたのと同じように、じっと観察するような視線を寄越して来る。
そして最後に
「君たち2人で上弦の陸と戦い勝利したと、鴉から報告を聞いた。よく頑張ったな」
と、言われてしまった。