第16章 私が守るべきもの
はっきり言ってとても苦しかった。
それでも
「…杏寿郎さん…っ…杏寿郎さん…!」
こうして、抱き合える事の方がよっぽど嬉しくて、そんな小さな事はどうでもいいと思ってしまった。
抱き合った杏寿郎さんから、フワリと濃い血の匂いがし
「…っ怪我…身体は…大丈夫ですか!?」
怪我の具合を確認しようと、杏寿郎さんの胸に埋めていた顔を離そうと試みる。
けれども杏寿郎さんは、私の事を離すつもりは全く無いようで
「………」
黙ったまま、まるで私という存在を確かめているかのように、私の身体を抱きしめ続けた。
……息遣いも…鼓動も…特におかしい所はない…とりあえず…今はこのままにしてあげよう
そう思い、腕に込めた力を抜こうとした私だが
コホン
「…っ!?!?」
あからさまな咳払いが耳に届き
……そうだ…ここにいるのは…杏寿郎さんだけじゃない…!
自分が今、誰の前で、何をしているのかを理解した。
あまりの衝撃にピシリと固まってしまった私だが
「感動の再会中のところすみません。ですが、うちのカナヲが目のやり場にとても困っているようでして。あちらでやっていただいても、よろしいでしょうか?」
しのぶさんの口から発せられたその言葉に
「…っすみません!今すぐ離れます!!!」
先程抜いた腕の力を、再び入れた。
けれどももちろん
「…っ杏寿郎さん!一旦離れて下さい!栗花落さんが…っ…困っています!」
非力な私が杏寿郎さんの力に敵う筈もなく
「…わかっている…だが無理だ…今は…君を離すことは出来ない」
「…っ…ちょ…!」
離れるどころか、更に強く抱きすくめられてしまった。
そんな事を続けていれば
「…っ炎柱…に荒山さん…!?…え…お2人って…そういうご関係だったんですか…!?」
角を曲がった先にいた村田さんにも見られてしまうわけで
「…っお願いです!お願いだから…一旦離れて下さい!」
「無理だと言っているだろう」
感動の再会は
「無理じゃありません!離して下さい!」
「嫌だ」
「…っもぉぉぉお!!!」
いつもの困ったやり取りへと、姿を変えた。