第16章 私が守るべきもの
もちろん善逸が、それを素直に受け入れるはずもなく
「えぇえ〜!嫌だよぉ〜!俺まだあちこち痛いよ〜!」
村田さんの背中に再び戻ろうと、その肩に無理矢理腕を伸ばした。
普段の私であれば
"こら!自分で歩きなさい!"
とでも言って、善逸を諌めるのだが、自分が共に戦わなかったが為に傷だらけになった善逸に、そんな厳しい事が言えるはずもなく
「…すみません…肩だけでも、貸してあげてもらえませんか?反対側は、私が支えるので…」
善逸と一緒になって、村田さんに甘えてしまう。
私の言葉を聞いた村田さんは、グッと何かを我慢するような表情を浮かべた後、グリンと勢いよく善逸の方に顔を向け
「お前のためじゃない!荒山さんのためだからな!!!」
と、唾を飛ばさん勢いで言いながら、善逸にその肩を貸してくれた。
「村田さん…っありがとうございます!ほら!善逸もきちんとお礼言って!」
善逸は、不満に思う気持ちをしっかりと表情に貼り付けたまま
「ありがとうございま〜す」
「…っコラ!」
村田さんに、形ばかりの感謝の言葉を述べたのだった。
善逸の右側を村田さん、左側を私が支え、ゆっくりと進んでいく。
当てもなく歩き続けるこの状況は、心を酷く疲弊させたが
"上弦の弐、撃破"
の知らせを受けた私たちの足取りは、決して重くはなかった。
「…はぁぁあ。鬼が出て来ないからいいけど…俺たちはいつまでこの狭っ苦しくて息苦しい空間にいなきゃいけないわけぇ」
「……わかんない…響の呼吸で気配を探ってみたけど、空間自体が捻じ曲がってるから、音の波じゃ探れなくて」
「今はとにかく、前に進むしかないだろ。あぁあ…誰でもいいから、柱と合流出来ないかなぁ」
村田さんは、そんな事を言いながら、がっくりと項垂れた。
「天元さん達は、上弦の壱と戦っている風柱様達の所を目指して移動してるみたいですし、合流は無理そうですね。…ねぇ和。しのぶさん達は今どんな感じなの?」
"しのぶさん達"と聞きながらも、頭の中では杏寿郎さんの姿を思い浮かべていた。