第16章 私が守るべきもの
「ちょっと待て」
1番後ろを歩いていた愈史郎さんの声に
「何だよ」
村田さんが、振り返りながらそう答えた直後
ベンッ
「え?」
琵琶の音が聴こえた気がした。
……今の音……何…?
視線を下げ、そんな事を考えていた直後
「「ッギャアァァァァァァァァ!!!!」」
汚い声の二重奏が私の耳に届き、慌てて下げていた視線をあげる。
すると、目に入ったのは、善逸の黄色い頭のてっぺんだけで、それも一瞬で見えなくなってしまった。
「あーっ!村田ー!!我妻ー!!!」
2人は、突然現れた穴へと落ちてしまったようで
「…っ善逸!村田さん!」
「あぁあ!荒山さんまでぇー!!!!」
私は、何の躊躇もなく、2人を追いかけ、自ら穴に飛び込んだ。
"ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ"
"死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!"
先に落下した2人に追いつこうと、身体が受ける抵抗が最小限になるように、指の先からつま先までをまっすぐ伸ばし
「善逸!村田さん!」
「あ゛ぁぁあ!鈴音姉ちゃぁぁあん!何で落ちて来ちゃったのぉ!?でも落ちて来てくれてありがとぉぉぉお!!!!」
おんぶの体制のまま落下し続ける2人の身体を捕まえた。
「荒山さん…俺たち…地面に衝突して死ぬんだね…どうせなら…鬼と戦って死にたかった…」
村田さんは完全に諦め体制に入ってしまったようで、どこか遠い目をしながらそう言った。
私はそんな村田さん(と、その背中でまだ叫んでる善逸)をグッと自分の身にくっ付けるように引き寄せ
「大丈夫です村田さん。説明は難しいので後回しにしますが、私から離れなければ、地面に衝突することはありません」
下の方へと視線を移した。
「…え?なにどういう事…俺…助かるの?」
「はい。だか「いぃやぁぁぁぁぁあ!!!」…っ善逸うるさい!さっきも大丈夫だったでしょ!?今度も大丈夫だから、静かにして!そんなにうるさくして失敗しても知らないからね!?」
半ば脅すようにそう言うと
「………」
善逸は、ようやくそのうるさい口を閉じてくれた。