第16章 私が守るべきもの
けれども
「眼球をぱっくりといきたくなければさっさと回復の呼吸とやらでお前も少しは回復を試みろ味噌っかす2号」
それでも尚喋り続ける愈史郎さんに
「やめろー!!!」
村田さんは唾を飛ばさん勢いで怒鳴りつけ
「絶対大丈夫!お前は助かる!お前は死なねぇぞ!」
その後、善逸の顔を覗き込み、励ましの言葉を掛けてくれた。
「頑張れ我妻!」
「がんばれがんばれ」
他の2人も、愈史郎さんのが述べた最悪の結果を吹き飛ばさん如く、善逸に言葉を掛けてくれる。
すると
……よかった…善逸の…呼吸が深くなっていく
その気持ちに応えるかのように、善逸の呼吸が僅かながらも深みを増して来た。
愈史郎さんはそんな善逸の様子に、もう安心だと判断したのか、先ほどまでに比べゆっくりと手を動かし
「お前の戦っていた上弦はまだ自分の術や能力を使いこなせてなかった。運のいいことだ。戦いが一年後だったら即死だったろうな」
淡々とした口調でそう言った。
けでどもその言葉は私にとって、酷く衝撃的なもので
……私は…そんな危険な戦いを…善逸一人にさせてたんだ
私を負の思考に突き落とすには十分だった。
そのせいか、隣で村田さんが愈史郎さんを再び怒鳴り、その怒鳴り声が頭に響いて来そうな程大きなものだったにも関わらず、言葉の内容が全く頭に入って来ない。
視線を下げ、私は自分の身体をジッと見る。
……善逸は…こんなにもボロボロなのに……私は…切り傷ひとつない…
そんな自分がどうしようもなく嫌だった。
”子を身ごもっているから仕方ない”
そう思うことは、どうしても出来なかった。
その時
……っ…来た!
無数の鬼が団子のようにまとまりながら、こちらへと向かってくる様子が視界に入る。
「大声出すから鬼が来たぞ。いい的だな」
愈史郎さんはそう言うと、まだ動くことが出来ない善逸をずるずると引きずるようにしながら鬼とは逆方向へと進んで行く。
一方で村田さん達は
「「「うぉぉぉぉぉお!」」」
と、互いを鼓舞するように雄たけびを上げながら鬼へと向かっていき
”頸が硬ぇ!!!”
”くさい!!!”
”もううんざり!!!
口々と文句を述べながらも、鬼と戦い始めた。