第16章 私が守るべきもの
けれども、愈史郎さんはそんな村田さんのことなど全く気にならないようで、手当をする手を少しも止めることなく、手慣れた様子で胸部から顔にかけてある善逸の稲妻傷に薬を塗り、でぺたぺたと医療用テープを貼り、包帯を巻いていく。
私も、稲妻傷になっていない部分に、いつも持ち歩いている止血剤を塗っていく。それを終えると
「善逸…お願い…口を開いて…!」
善逸の口元に、小さな丸薬を持って行った。すると善逸は聞こえているのか聞こえていないのか、朧げな反応を見せながらも、私がお願いした通り、薄く口を開けてくれた。
私は、善逸の後頭部に手を置き、頭を少し持ち上げ
「っ頑張って…飲み込んで…!」
善逸の喉の奥に丸薬を押し込んだ。
善逸は一瞬苦し気な顔を見せた後
「……っ…」
まだそこまで大きくない喉仏を上下に動かし、薬を飲みこんでくれたようだった。
「今飲ませたのはなんだ?」
「…造血剤です」
「造血剤?その止血剤も、俺が持っているものよりも効果がありそうだが、何故お前みたいなやつがそんなもの持っている?」
愈史郎さんが、訝し気な表情を浮かべながら、私の方にちらりと視線を寄越してきた。
私は、ゆっくりと善逸の頭を元の位置に横たえながら
「…私の師範、元忍なので」
それだけ答えた。
愈史郎さんは、自分で聞いたくせに”そうか”と興味なさげに言うと、一旦手を止め善逸の顔の傷をじっと見た。
それから意識が飛びそうになっているのか、目を瞑りかけている善逸のおでこをペシペシと叩き
「血鬼止めは使っているが、この顔の傷、ひび割れが止まれなければ眼球まで裂けるぞ。聞こえるか?」
まるでごく普通のことを話すような口調で言った。
そんな愈史郎さんの言葉に
「…っ…善逸!寝ちゃ駄目!頑張って!私と呼吸を合わせて!!!」
私は、何とか善逸に呼吸を深めてもらおうと声を掛ける。そんな私たちのやり取りが聞こえたのか
「弱ってる奴に怖いこと言うなや!!!」
1番そばにいた村田さんが大声でそう言った。