第1章 始まりの雷鳴
「だから私には、家庭を築いて、誰かと一緒に生活をすることが幸せなこととは思えません。それよりも寧ろ、女将さんのもとで、女将さんの手伝いをしている日々の方がよっぽど幸せでした」
働いているときは、女将さんが私の働きで喜んでくれるときは、自分の存在に自信を持つことができた。
座卓から人一人分距離を取り、私は床に額をつけ
「だからお願いです。私に…自分がいてもいいと思える場所を下さい。小柄だし非力だけど…私にはこの”聴こえる”耳があります。頭はいいほうです。自分なりに戦える方法を探します。だから…どうかお願いします!」
頭を下げ桑島さんに懸命にお願いをした。
鬼殺隊に身を置き、女将さんの無念を払うために、苦しむ人のために、鬼と戦う。
私には、そこに自分の居場所があるような気がしてならなかった。
沈黙が部屋を包み、聴こえるのは桑島さんと私のかすかな息遣いと自分の心臓の音だけ。
スッと息を吸う音が聴こえ、私は何を言われるかと身構える。
「わしが断ったらどうするつもりじゃ?」
「…別の育手を探します」
「…やはり、そう言うと思ったわい」
桑島さんは、はぁ大きなため息を一度つき、
「わかった」
と静かに呟いた。
私はバッと顔を上げ、
「…っありがとうございます」
桑島さんの目をじっと見据えそう告げた後、再び頭を下げる。
「そうと決まればら、これからビシビシ鍛えてやろう!じゃが、お前が選んだ鬼殺という道は長く険しい道。絶望し、打ちのめされることもあるじゃろう。だが、鈴音…お前の目からは強い決意を感じる。きっといい雷の呼吸の使い手になる。…気張るんじゃぞ」
「はい。なります…必ず」
こうして私は、鬼殺隊士になるための大きな一歩を踏み出し、自分の存在意義をつかみ取るための新たな場所を見つけることが出来たのだった。