第16章 私が守るべきもの
「大勢の人を喰ったな…もう善悪の区別もつかなくなったんだな?」
先ほどは斬撃を避けた善逸も、五連撃を全て避けることは出来なかったようで、斬られた左頬からプシュッと血が吹き出していた。
「善悪の区別はついてるぜ!!」
そう言いながら獪岳は、立て続けに参ノ型を放ち
「俺を正しく評価し認める者は"善"!!低く評価し認めない者が"悪'だ!!」
更に
「伍ノ型…熱界雷!!」
善逸に向け、鋭い斬撃を放つ。
その斬撃は、善逸に当たると同時に
ビチッ
……っ…あの音は…何!?…あんな音…熱界雷を放ってもしないはず……もしかして…鬼の力…!?
不穏な音を立て、善逸の顔に稲妻のような跡をつけた。
「どうだ!?血鬼術で強化された俺の刀の斬れ味は!皮膚を!!肉を!!ひび割って焼く斬撃だ!!」
勝ち誇ったようにそう言う獪岳は、畳み掛けるように陸ノ型を放ち
「…っ…善逸!!!!」
善逸の全身を激しく斬りつけた。
「喰らった斬撃はお前の身体でひび割れ続ける!目に体に焼きつけろ俺の力を!鬼となり雷の呼吸を超えた!俺はお前らとは違う!お前らとは違うんだ!!」
ぽっかりと開いた穴を真っ逆さまに落ち、姿の見えなくなってしまった善逸を助けに行こうとしたが
トッ
と壁を蹴った音が聴こえ、踏み出した足をそのままに、動くのをやめた。
「…っ…アンタと私たちが…同じな訳ないでしょ!?アンタは雷の呼吸を超えてなんかない!強くなんかなってない!全部全部鬼の汚い力だ!アンタなんかより…っ…善逸の方がよっぽど強いんだから!!!!
抑えきれない怒りの感情で、言葉と同時に涙が溢れて来る。
叫ぶ私に
「…何だとテメェ…」
獪岳がジッと視線を寄越したその刹那
「雷の呼吸漆ノ型…火雷神!」
……ザンッ!!!!
雷の竜を纏った善逸が、獪岳の頸と身体を両断した。
身体を失った獪岳の頭と、頭を失った獪岳の身体が、穴の中へと落ちていくのが見えた。
けれども
「…っ善逸…!!!!」
傷だらけで、全ての力を使い果たした善逸も、獪岳と同じように落ちていってしまう。